2006-02-08(Wed): 会ってみて考えが変わるということ −常世田良さん

公共図書館が猫も杓子もという勢いで、ビジネス支援に取り組んでいることには長い間冷ややかだった。生き残りのために公共図書館がただいたずらに取り組んでいるという印象があるからだ。だが、先日パネリストとした参加した国立国会図書館の公開シンポジウム「デジタル時代における図書館の変革 −課題と展望−」(2006-01-26(Thu)の編集日誌参照)で常世田良さん(日本図書館協会事務次長)のお話をうかがって少し考えが変わった。
常世田良さんは、ビジネス支援だけではなく、医療情報の提供や法律情報の提供を公共図書館が担っていく重要性を指摘していた。なるほど、そこまで領域が広がるのであれば、公共図書館の役割として論じることができるかもしれない。ただし、一方で法的な支援については、法務省と日本弁護士連合会(日弁連)が日本司法支援センター(法テラス)の設置をすでに法制化し、2006年度中に稼動する可能性が高い。また、医療分野では、がんを語る有志の会のような患者会によって日本がん情報センターの構想が進められている。それでは公共図書館はこのような動きとどれだけ共同歩調がとれるのだろうか。いままさにとろうとしているのだろうか、とっているのだろうか。次はそこを知りたい。
図書館発ではないほかの流れと連携することがなければ、不用意に情報センターが乱立するだけであり、利用者である市民の誤解と混乱を招くだけだろう。地域の特性や課題を取り込んだ、その地域の公共図書館ならではの取り組みが生まれていってほしい。たとえば、東京都大田区大森一帯の公共図書館の場合、地域に存在する大学病院との連携が一つの鍵となってくるのではないか。大森にある東邦大学医療センター大森病院には、「からだのとしょしつ」というスペースがある。インフォームド・コンセントを推進する同病院の姿勢から生み出されたもので、患者への情報提供を旨としている。このような地域の機関とどのような協力体制を組めるだろうか。逆に、万一、東邦大学医療センター大森病院への不信感から公共図書館に飛び込んでくる市民がいた場合は、どのように対応できるだろうか。協力関係と同時に緊張感のある関係も求められることだろう。公共図書館の力量が厳しく問われる道である。先行する、あるいは後発の地域の諸機関とどのような友好関係と緊張関係を築けるのか、各地の公共図書館の取り組みに期待したい。

2006-01-26(Thu)の編集日誌
http://d.hatena.ne.jp/arg/20060130/1138549812
・日本司法支援センター(法務省
http://www.moj.go.jp/SHIHOUSHIEN/
・日本司法支援センター(日弁連
http://www.nichibenren.or.jp/ja/judical_support_center/
・がんを語る有志の会
http://www.geocities.jp/cancer_room/
・からだのとしょしつ
http://www.mnc.toho-u.ac.jp/mmc/karada/
東邦大学医学メディアセンター
http://www.mnc.toho-u.ac.jp/mmc/
東邦大学医療センター大森病院
http://www.toho-omori.gr.jp/
・『浦安図書館にできること』(常世田良著、勁草書房、2003年、2730円)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4326098279/arg-22/
・『未来をつくる図書館』(菅谷明子著、岩波新書、2003年、735円)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4004308372/arg-22/
・『情報基盤としての図書館』(根本彰著、勁草書房、2002年、2940円)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4326050152/arg-22/
・『続・情報基盤としての図書館』(根本彰著、勁草書房、2004年、2520円)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4326098295/arg-22/