2006-05-25(Thu): 授業評価サイトは中傷でいっぱい?

5月19日(金)の朝日新聞朝刊の「私の視点」欄に山本淳子さん(新潟県立看護大学)による「授業評価サイト 中傷の氾濫 運営者に責任」という記事が掲載された。後できちんと読もうと思って切り取っておいた記事を再読。
大手IT企業の子会社が運営する授業評価サイトを厳しく批判している。匿名の投稿者による中傷であふれている、教員の個人情報が書き込まれている、という意識と観察に基づき、批判が展開され、文章の締めの部分では、

教員の実名を公開する場合には、最低限、本人にその旨連絡を入れるべきだろう。

とある。
うなってしまう……。
私自身、ちまたにあふれる授業評価サイトにそれほどの意義があるとは思わない。ただし、誤解しないでほしいが、授業評価サイトが無価値といっているのではない。単にIT企業が提供するものであれ、あるいは学生団体が提供するものであれ、いまある授業評価サイトはインターネットサービスとしてはまだまだ未熟であり、いわゆる口コミのサイトとして成功していないと認識し、このように評価しているだけである。機会があれば、熟慮された授業評価サイトを手がけてみたいとすら思う。
だが、山本さんのこの論考には賛成しかねる。論点を絞って述べよう。
一つは、なぜこのような授業評価サイトがある程度支持されているのか、背景にある理由を考えてほしい。いまや全国の大学で授業評価が行われている。それにも関わらず、なぜ授業評価サイトに利用者が集まってくるのだろうか。あくまで推測に過ぎないが、それでも自信を持って、大学が行う授業評価は学生のニーズを満たしていない、といえるだろう。
こういえば、いや大学で行う授業評価は授業の改善を目的に行っているもので、単位認定の難易度をはかるためにやっているものではない、だから授業評価サイトに見られるような学生のニーズを満たすことはそもそもできない、という反論が返ってくるだろう。一理ある。だが、現にここには授業評価サイトを支持する声があるわけで、位置づけの違いを強調するだけでは事態は改善されない。そして、授業評価サイトに投稿される声はすべてが単位認定の難易度だけを述べているわけでもない。必ずしも多数派ではないが、圧倒的な少数派でもない声として、ここには授業に対する多様な声がある。一刀の下に切り捨てるわけにはいかないのではないだろうか。大学や教員には、単位認定の難易度を含め、授業評価サイトに寄せられている生の声から、いまの大学の授業評価に欠けているものを見つけ出す努力をまずはしてほしい。
あと二点、述べておきたい。
山本さんは中傷と個人情報という言葉を繰り返し用いている。しかし、そもそもここで問題としているサイトを具体的に明示することなく、「中傷」「個人情報」といった刺激的な言葉を使うべきではない。問題のサイトを特定しないということは、山本さんの指摘を受けて事実を知りたいと思った読者は、どれが問題のサイトかわからないということだ。自分の目で山本さんの指摘が真実なのか、確かめる手立てを持てないということだ。これは批判の仕方としてフェアではない。
最後は、

教員の実名を公開する場合には、最低限、本人にその旨連絡を入れるべきだろう。

という山本さんの指摘である。
これは真剣に山本さんにうかがってみたい。仮に山本さんが求める連絡を入れた際、教員側としては受け入れがたい批判的な投稿はどのように扱えばよいのだろうか。連絡を受けた教員が受け入れがたいと思う批判的な投稿は掲載すべきではないということだろうか。連絡を入れるという言葉は一見中立的な響きがあるが、連絡を入れることが評価される側にある教員の許諾をとる、ということにつながるのであればそれもまたフェアではない。
そして、講義を行う教員の実名はインターネットで公開されている大学のシラバスなどでなかば公知の事実となっている情報である。あらためて「実名を公開する」というほどのことではないだろう。山本さんの真意がどこにあるのかわからないが、ここで二度に渡って引用した山本さんの指摘に、私は審査や許諾といったニュアンスを感じてしまう。
これまでのように大学のキャンパス内で流布される楽勝講義リストとは異なり、インターネットで無限に広がっていく評判情報に教員が恐れや警戒を抱くその心理はわからなくもない。だが、私はここは教員に覚悟を求めたい。大学の教壇に立つ以上、その事実と評判とが流布されていくことは受け止めるべきではないだろうか。そして、反論や反証があるならば、自分の個人サイトを開設し、そこで大学として行なった授業評価結果や自らのコメントを公開すればいいのではないだろうか。あるいは、大学として授業評価の結果をまとめて公開すればいいのではないだろうか。恐れや怒りを抱く対象にとれる手段はいくらでもある。だが、そのときとる手段は「北風と太陽」の「太陽」であってほしい。

なお、山本さんが話題にしているのは楽天の子会社・みんなの就職株式会社が運営する「みんなのキャンパス」のことだろう。サイトを紹介しておくので、読者の方々には実際に投稿されている内容をご覧いただき、それぞれの考えの参考としてほしい。

・みんなのキャンパス
http://campus.nikki.ne.jp/