2006-10-07(Sat): 笠羽晴夫さんの「デジタルアーカイブ百景」

解説のレビューはARGを待とう
デジタルアーカイブ百景:いま大学図書館では」(図書館員もどきのひとり言、2006-07-22
http://liblog.seesaa.net/article/21403082.html

ということなので、コメントしておこう。なお、笠羽さんの連載については、2006-08-18(Fri)の編集日誌「デジタルアーカイブとしての大学図書館」でもふれている。

さて、笠羽さんの一連の論考での指摘はどれも妥当と思う。と同時に図書館は、デジタルアーカイブに生かせるものを他から学べないだろうか、という笠羽さんの姿勢に学んでほしいと思う。話がそれるがまずこの点から述べておきたい。笠羽さんをはじめ、『デジタルアーカイブ白書』の編集にあたっていた方々から依頼され、「デジタルアーカイブOPACから学べること」(『デジタルアーカイブ白書2005』、デジタルアーカイブ推進協議会、株式会社トランスアート発売、2005-03-31)という記事を書いたことがある。記憶が定かではないが、タイトルは私自身がつけはしたものの、依頼の趣旨はタイトルと同様のものだったと思う。いま思うと、正直なところでは、「OPACデジタルアーカイブから学べること」であるべきだったかもしれない。課題はあるにせよ、ビジネスモデルの開発を含め進境著しいデジタルアーカイブが停滞しているOPACに学ぶところは、そう多くはない。だが、それにも関わらず、OPACとその提供機関である図書館に学ぶべきところを探すデジタルアーカイブの姿には驚かされると同時に、著しい進境の理由もわかってくる。これほど貪欲な姿勢があればこそ、デジタルアーカイブの現在があるのだろう。

さて、各回の記事について印象的な箇所を挙げておこう。

大学とその地域を意識したデジタルアーカイブは、その存在意義もわかりやすく継続にも有利ではないだろうか。しかも通常の絵画であればミュージアムに行けば展示されているものを見ることができるが、ここで扱われているようなものはその機会もまずなく、特別に見せてもらったとしても、ここの画面を前にするように余裕を持って鑑賞することはできない。デジタルアーカイブの強みを証明したものであろう。
笠羽晴夫「いま大学図書館では」(artscape - デジタルアーカイブ百景、2006-07)
http://www.dnp.co.jp/artscape/artreport/hyakkei/0607.html

この種の事業には継続が肝心ということを忘れてはならないだろう。上記に紹介したものの多くは、国からまとまった予算を取ることができた結果であったり、創立記念事業であったりして思い切ったことができた結果である。この様な場合、次のフォローが資金的にも人的にも困難なことはよくある。しかしそれではせっかく集められたもの、データを活かすことにはならないし、またこれらを利用するマン・マシン・インタフェースも時代遅れになりユーザから敬遠されるもとになる。本来はさらに素人向けのナビ、ガイドなどを望みたいところである。
・笠羽晴夫「大学図書館のさまざまな魅力」(artscape - デジタルアーカイブ百景、2006-08)
http://www.dnp.co.jp/artscape/artreport/hyakkei/0608.html

大学が社会の組織の中でより多くの特権を得ていることを考えれば、少なくともインターネットによる外部からのアクセスに対し、今後より多くのサービスを提供することは考えられていいはずである。
・笠羽晴夫「大学図書館、期待と課題」(artscape - デジタルアーカイブ百景、2006-09)
http://www.dnp.co.jp/artscape/artreport/hyakkei/0609.html

大学図書館の側にいる人々からすれば、「いまさら、わかりきったこと」という指摘かもしれない。だが、笠羽さんが指摘している点はあらためて考える必要があると思う。外部からの、しかも専門家の視点からの数々の指摘には、まさにデジタルアーカイブがそうであるように学ぶべきところが多くあるのではないだろうか。

ところでまったく別の感想だが、このようなレビューは大学図書館の内部では行われているのだろうか。たとえば、大学図書館問題研究会のような大学図書館職員の集まりのなかで、建設的な相互批判を継続していくことは非常に大切なことだと思う。大学図書館関係者の反響を期待したい。

・「デジタルアーカイブ百景:いま大学図書館では」(図書館員もどきのひとり言、2006-07-22
http://liblog.seesaa.net/article/21403082.html
・「デジタルアーカイブ百景 第2回」(図書館員もどきのひとり言、2006-08-13
http://liblog.seesaa.net/article/22683080.html
・「読み直す」(図書館員もどきのひとり言、2006-08-23)
http://liblog.seesaa.net/article/23266964.html
・「デジタルアーカイブ百景(3)」(図書館員もどきのひとり言、2006-09-18
http://liblog.seesaa.net/article/24741545.html
・「デジタルアーカイブ百景」(HUSCAP園芸部、2006-09-17)
http://blog.livedoor.jp/x822gaz/archives/51080639.html
・笠羽晴夫「いま大学図書館では」(artscape - デジタルアーカイブ百景、2006-07)
http://www.dnp.co.jp/artscape/artreport/hyakkei/0607.html
・笠羽晴夫「大学図書館のさまざまな魅力」(artscape - デジタルアーカイブ百景、2006-08)
http://www.dnp.co.jp/artscape/artreport/hyakkei/0608.html
・笠羽晴夫「大学図書館、期待と課題」(artscape - デジタルアーカイブ百景、2006-09)
http://www.dnp.co.jp/artscape/artreport/hyakkei/0609.html
・笠羽晴夫『デジタルアーカイブの構築と運用』(水曜社、2004年、1575円)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4880651397/arg-22/
デジタルアーカイブの構築と運用―ミュージアムから地域振興へ (文化とまちづくり叢書)
・『デジタルアーカイブ白書 2005』(デジタルアーカイブ推進協議会、2005年、2700円)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4887523467/arg-22/
デジタルアーカイブ白書〈2005〉
2006-08-18(Fri)の編集日誌「デジタルアーカイブとしての大学図書館
http://d.hatena.ne.jp/arg/20060823/1156287547