2006-11-29(Wed): すべての学術資源にクレジットを入れよう
すべての学術資源にクレジットを入れよう。
これまでもACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)では、紹介するサイトにクレジットがある場合は、言及し、その重要性を訴えてきた。だが、依然としてインターネットで公開される学術資源では、制作・公開を主導した担当者の氏名が明記されることはあっても、データの入力や校正、サイトの設計やデザイン、開発にあたった個人や組織の名前が明らかにされていることは稀だ。そこで、あらためて提案したい。
すべての学術資源に作成・公開に寄与した関係者のクレジットを入れよう、と。
なぜ、このような提案をするのか。その理由は三つある。
一つには、作成・公開に関わった個人や組織の実績として記録するためである。二つには、制作・公開に関わった個人や組織の責任範囲を明確にするためである。三つには、そして最終的には学術資源の作成・公開の品質を向上させるためである。
- 評価される実績とするため
学術資源の多くは一人の人間の力でつくりあげられるものではない。作成し、公開に至るまで、実に多くの個人と組織が関与し、その力があって初めて日の目をみている。たとえば、画像を駆使したデータベースであれば、データの収集と入力、画像の撮影と電子化処理、データベースの設計と開発、サイトのデザインとhtmlのコーディング、文章の校正とサイトの機能テストなど、様々な仕事がある。このすべてを一人の力で実現しているデータベースばかりではない。いや、多くのデータベースは中心的な人物以外に多数の協力者の力を借りて一般に公開されていることだろう。個人であるか、組織であるかを問わず、誰が、あるいはどこが、どの部分に関与し、どのような成果を残したのか、第三者にわかる形で明記しよう。そうすることで、関与した個人や組織の実績として形に残る。そうなれば、データベースの作成・公開に関わったことは、当人たちにとってときに名誉となり、ときに業績となる。最終的にそこにはデータベースの作成・公開に寄与しようというモチベーションが育まれる。このようなモチベーションの醸成は、データベースに限らず、あらゆる学術資源にとって幸せなことだろう。
- 責任範囲を明確するため
実績として明記するということは、同時に責任範囲を明確にするということでもある。これまで公開された学術資源の内容に問題があり、公開が一時的に、あるいは永久に停止されたという事例が少なからずある。だが、物事は「All or Nothing」ではない。たとえば、データの収集と入力に問題があったとしても、収集したデータの画像撮影や電子化処理の仕事としての価値が損なわれるわけではない。誰が、あるいはどこが、どの部分に関与し、どのような役割を果たしたのかを明記することで、たとえ問題が発生したとしても、独立した行われた仕事一つひとつの価値は保たれる。もちろん、担当範囲、つまりは責任範囲を明確にする以上、問題がある箇所を担当した個人や組織は厳しい批判にさらされることもあるだろう。だが、最初に挙げた実績としての価値を持つことを考えれば、それはやむをえないことだ。連帯責任では問題は解決しない。個々の関係者の責任を明確にすることで、問題が発生した原因や構造を究明できるほうが、その学術資源が適切な修正を受けて日の目をみるためにははるかに重要だろう。
- 学術資源の品質を向上させるため
分担範囲ごとにクレジットが明記されることで、その学術資源を総合的にだけでなく、内容や機能を個別的に評価できるようになる。そうなると、何が変わるだろうか。一ついえることは、たとえばデータの収集や入力、画像の撮影や電子化処理、データベースの設計と開発、サイトのデザインとコーディングといった役割ごとに、関与した個人や組織の評価が可能になるということだ。そうなれば、たとえば、その学術資源の編集的な部分を請け負った編集者や編集プロダクション、電子化やサイト構築を請け負った技術者や企業は、自らの能力や実績を広くアピールできるようになる。もちろん、そのアピールはいいことずくめではない。プロとして恥ずかしい内容であれば、逆にネガティブなアピールとなるだろう。だが、それはそれでよい。そのようなプラス、マイナス両面の評価にさらされるという緊張感が、関係する個人や組織を鍛え、結果的に学術資源の品質が向上されていくのだから。実際、学術系サイトの作成・公開の関係者、特に企業はじゅうぶんに自らの企画力や技術力に自信を持っていることだろう。そのような企業がきちんと自らの技量の証明とできるようにするためには、クレジットの明記は欠かせないことの一つだ。
以上の3点から、重ねて訴えたい。
すべての学術資源に作成・公開に寄与した関係者のクレジットを入れよう、と。
参考までに、これまでACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)で紹介してきたクレジットの記載例を再度紹介しておく。
「科学技術振興機構(JST)、JSTバーチャル科学館に「惑星の旅」を追加」
番組形式の構成のため、その意識が高いのだろうが、コンテンツにクレジットが入っている。良い先例として、他のコンテンツにも拡大させていってほしい。
(新着・新発見リソース、2006-01-23)
http://d.hatena.ne.jp/arg/20051128/1133108783
「国立民族学博物館、「中西コレクションデータベース−世界の文字資料−」を公開」
「制作者の紹介」の欄に、監修、資料分析、データ作成、協力の4点で、このデータベースの作成に寄与した人々の名前が明記してあるのはよい。このようなクレジット表示は、よいいっそう普及してほしいことの一つだ。
(新着・新発見リソース、2005-11-28)
http://d.hatena.ne.jp/arg/20050321/1134801310
データベースのシステム設計・開発担当者、データ収録担当者の氏名が明記されている。データベースの公開に貢献した人々の名前を記すことは、当然のことではあるが、インターネットで発信される学術コンテンツの信頼性を高め、業績としての評価を少しでも確かなものにするうえでの意味ある取り組みといえるだろう。
(新着・新発見リソース、2005-03-21)
http://d.hatena.ne.jp/arg/20050424/1134800857
「広島大学図書館、デジタル郷土資料館に「広島大学所蔵奈良絵本・室町時代物語」を追加」
監修者や解題、翻刻の担当者だけでなく、サイト作成者の氏名が明記されていることも評価したい。
(新着・新発見リソース、2005-04-24)
http://d.hatena.ne.jp/arg/20050424/1134800866
「東京大学東洋文化研究所附属東洋学研究情報センター、アリー・ ムバーラク『エジプト新編地誌』データベースを公開」」
データベースの入力などにあたった方々の氏名が明記されていることはよろこばしい(謝辞)。
(新着・新発見リソース、2005-01-10)
http://d.hatena.ne.jp/arg/20050110/1136270216
クレジットを記載しているサイトはまだ他にもあるだろう。ご存知の方は自薦他薦を問わず、ご教示いただけると幸い。