2007-06-09(Sat): 国立情報学研究所オープンハウスで講演「図書館目録の将来:ユーザの視点から‐ユーザーの拡大を受けて」

昨日は国立情報学研究所オープンハウスの一環として行われたスCSIワークショップ「図書館目録の将来:ユーザーの視点から、図書館の視点から」にパネリストとして参加した。他のパネリストは、篠原稔和さん(ソシオメディア)と片岡真さん(九州大学附属図書館)のお二人。

国立情報学研究所オープンハウス
http://www.nii.ac.jp/openhouse/
・「6月8日(金)、国立情報学研究所オープンハウスに参加」(編集日誌、2007-05-24
http://d.hatena.ne.jp/arg/20070524/1180018734

でも紹介しているが、最近ほぼ同じ時期に国立国会図書館の「カレントアウェアネス」に記事を書いている。

・篠原稔和「ファインダビリティ向上を実現するフォークソノミー」(「カレントアウェアネス」291、2007年)
http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/ca/item.php?itemid=1040
・片岡真「Google ScholarWindows Live Academic Searchと図書館の役割」(「カレントアウェアネス」289、2006年)
http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/ca/item.php?itemid=1061
・岡本真「図書館サイトの現状−再点検の必要性と危機感の欠如−」(「カレントアウェアネス」291、2007年)
http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/ca/item.php?itemid=1060

自分が含まれるので、コメントしづらいが、企画としてみた場合、この時期にこの3人をパネリストとして立てたのは、非常に良い着眼点と思う。先日の専門図書館協議会の全国研究集会で、第3分科会の講師を務めた牟田静香さん(大田区立男女平等推進センター・エセナおおた)が、講座の成否は企画にあること、そして企画担当者の熱意と努力にあることを強調されていたことを思い出す。

大田区立男女平等推進センター(エセナおおた)
http://www.escenaota.jp/
・『人が集まる !行列ができる !講座、イベントの作り方』(牟田静香著、講談社α新書、2007年、840円)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4062139065/arg-22/

人が集まる !行列ができる !講座、イベントの作り方 (講談社+α新書)

今回のワークショップ「図書館目録の将来:ユーザーの視点から、図書館の視点から」は早々に参加者枠が埋まり、会場の変更もし、当日も大入りという感じであったが、少なくとも集客という観点では大きな成功であったと思う。ワークショップで司会を務めてくださった相原雪乃さん(国立情報学研究所)をはじめ、国立情報学研究所(NII)のスタッフの皆さまの尽力の賜物だろう。あらためて運営サイドの皆さまに御礼申し上げたい。

さて、私は冒頭に問題提起として、

・「図書館目録の将来:ユーザの視点から‐ユーザーの拡大を受けて」【PPT】
国立情報学研究所オープンハウスCSIワークショップ「図書館目録の将来:ユーザーの視点から、図書館の視点から」、於・学術総合センター、2007-06-08)
http://www.ne.jp/asahi/coffee/house/doc/nii_openhouse(20070608).ppt

という内容で報告した。詳細は上記の報告資料をご覧いただきたいが、参加者全体での討論に向けて、

  1. 実は、ユーザーが拡大したのでないか
    • 「能動的な表現者」としてのユーザー
  2. では、新たなユーザーに何を提供できるか
    • 宝庫としての図書館目録
  3. そのとき、図書館目録の世界をどう変えられるか
    • API公開を目指したモデル再構築
  4. そして、目録世界の変化は何を生み出すか
    • ユーザーによる図書館目録の多様化
    • 図書館による図書館サービスの深化

という問題提起をさせていただいた。聞き手の反応としては、

・「国立情報学研究所オープンハウス2007」(かたつむりは電子図書館の夢をみるか、2007-06-09)
http://d.hatena.ne.jp/min2-fly/20070609/1181345885
・「CSIワークショップ」(司書になりたい図書館員の日記、2007-06-08)
http://d.hatena.ne.jp/sinngetu/20070608/p1

をご参照いただきたい。

以下、当日の内容を振り返りつつ、メモとして記しておく。

冒頭で尾城孝一さん(国立情報学研究所)が開催目的として従来の議論は目録作成に偏りがちであり、利用者サービスという視点は欠けがちであったことを指摘された。その上で今回は目録をいかに使っていくかに焦点をあて、特に外部の視点を取り入れたいという企画趣旨、そしてなぜ講師陣がこの顔ぶれなのかを説明された。冒頭に明確な趣旨説明が主催側からなされたことが、全体を非常にわかりやすくしたと思う。パネル形式の催しのノウハウとして参考になる。

報告者3名の話の後、相互にコメントしあった。ユーザビリティ関連の話は非常に刺激を受けるのだが、いざ実施してみようという際、導入に役立てられるツールが入手しづらい。そこで、私から篠原さんにはソシオメディアで業務を圧迫しない範囲でそれらの資料を公開できないだろうか?とお尋ねしたみたところ、つい先日ベストプラクティス集を公開されたとのこと。早速拝見してみた。

・最新の事例
http://www.sociomedia.co.jp/category/casestudies/
・最新のUIデザインパターン
http://www.sociomedia.co.jp/category/uidesignpatterns/
・ソシオメディア
http://www.sociomedia.co.jp/

が公開されている。ごく最近ウェブサイトをリニューアルされたようだ。すばらしい。篠原さんをはじめ、ソシオメディアのスタッフがウェブデザインの向上にどれほど真剣に取り組んでいるかがよくわかる。篠原さんは事例の公開と共有がなによりも重要と指摘されていた。ここはOPACを作成・公開している機関にもがんばってほしいところだ。国立情報学研究所(NII)はもとより、各地の大学や研究機関の附属図書館では日夜試行錯誤があることだろう。成功・失敗のいずれであれ、その経験を広く公開・共有していくことが必要だろう。たとえば、これまで何度か紹介してきているようなアンケート結果の公開から始めてみてはどうだろうか。

また、ディスカッションの流れからお答えすることができなかったが、篠原さんからは私が提案するような新たなフレームワークづくりが進まない理由はどこにあるのかをご質問いただいた。理由の一つは、やはり従来は利用者サービスという視点が欠けていたというところにあるのではないか、と思う。図書館目録の利用者を図書館関係者に限って考えれば、確かに現状に問題はないのかもしれない。当然、現在の図書館目録の問題が気づかれることも少なく、新たなフレームワークの必要性が叫ばれることもないだろう。

他にも大学図書館員の方々から、目録や書誌の意義を問うご質問をいただいた。私自身は安易な不要論に与するつもりはなく、書誌を作成し、総合的な目録を提供することに大きな意義を感じている。だが、これまでのやり方や、あり方に縛られていては、利用者を満足させるものにはならない。既存の目録の考え方や方法を根本的に解体し、新たな目録を生み出していくことはできないだろうか。

その他、いろいろと思うところはあるが、きりがないのでこのへんまでにしておこう。ある雑誌に「OPACユーザビリティ」をテーマに記事を書くことになっているのだが、今回のワークショップを通して考えたことを少しでも盛り込めればと思っている。