2007-11-07(Wed): 福島大学附属図書館の大塚久雄文庫を訪問

・「来週の予定−平成19年度図書館地区別(北日本)研修@福島と図書館総合展」(編集日誌、2007-11-02)
http://d.hatena.ne.jp/arg/20071103/1194049537

で記したように、平成19年度図書館地区別(北日本)研修で福島市に来ている。自分自身の登壇は明日なので、福島大学附属図書館に大塚久雄文庫を訪ねた。

大塚久雄文庫
http://www.lib.fukushima-u.ac.jp/ootsuka/ootsuka.html
大塚久雄文庫(福島大学の秘蔵)
http://www.ipc.fukushima-u.ac.jp/~a012/ohtsuka.html

大塚久雄さんについては説明を要しないと思いたいが、政治学における丸山眞男さん、法学における川島武宜さんらと並ぶ戦後の学問再興を支えた経済学者の一人である。『社会科学の方法』(岩波新書、1966年)や『社会科学における人間』(岩波新書、1977年)の著者として、あるいは『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(岩波文庫、1989年[改訳版])の翻訳者として知っている方も多いだろう。

社会科学の方法―ヴェーバーとマルクス (岩波新書)
社会科学における人間 (岩波新書)
プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 (岩波文庫)

・『社会科学の方法』(岩波新書、1966年)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4004110629/arg-22/
・『社会科学における人間』(岩波新書、1977年)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4004200113/arg-22/
・『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(岩波文庫、1989年[改訳版])
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4003420934/arg-22/

さて、大塚久雄文庫だが、学外者で、かつ研究者でなくても自由に閲覧できる。別室になっており、落ち着いて文庫に収められた大塚久雄さんの旧蔵書を一冊一冊手にとれる。閲覧を終えた後に、福島大学附属図書館の方とも話したのだが、国立大学とはいえずいぶんとオープンなもので感心してしまう。この開放性は福島という失礼ながら周辺の地に文庫があればこそ実現していることかもしれない。東京や京都、大阪であれば、好奇心から文庫を訪れる場合も多く、文庫の管理をある程度厳重にしないとほんの痛みも早いことだろう。福島を訪れるというひと手間をかけてまで、大塚久雄さんの旧蔵書にふれたいか、という地理的なハードルが公開性・開放性を支える鍵の一つになっているように思う。

さて、文庫の中身だが、経済学者として大塚久雄さんだけではなく、内村鑑三に師事したキリスト者としての大塚久雄さん、教育者としての大塚久雄さん、分野を超えて関心を持ち合ったネットワーカーとしての大塚久雄さんの姿がうかがえた。印象的だった点をいくつか挙げておこう。

  1. 自身の著作の初版に「保存用」と記した上で署名し、丁寧に校正している。校正した個所は重版の際に修正されている(たとえば『社会科学の方法』の142頁)。
  2. 自身の著作、他人の著作を問わず、新聞書評等を丁寧に切り抜き、本に差し込んで保存している。
  3. 相当数の旧蔵書の中でも聖書が一番読み込まれている。すでに背表紙が崩れかかるほどである。傍線や書き込みも相当数にのぼる。

約4年をかけて文庫を整理した福島大学附属図書館では傍線や書き込みの有無を丹念にまとめており、大学図書館の仕事の質の高さを感じさせられた。

1時間ほど、文庫を拝見してあらためて感じたことだが、やはりこれらの資料が電子化され、どの本にどのような傍線や書き込みをしているのかをわかるようにし、かつその傍線や書き込みの位置と内容を他の研究者の傍線や書き込みと比較・共有できるようになるとおもしろい。たとえばマックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』であれば、本文を電子化し、大塚久雄さんはどの個所に傍線を引き、書き込みをしたのか、丸山眞男さんはどの個所に傍線を引き、書き込みをしたのか、、川島武宜さんはどの個所に傍線を引き、書き込みをしたのか、といった比較ができると大いに役立つことだろう。

たとえば、まず一つの機関が本文を電子化し、同時に傍線や書き込みの位置と内容を指し示すためのデータフォーマットを決める。旧蔵書の保存機関がそのフォーマットに従ってデータを作成・公開する。こうした公開データを読者が自由に利用し、関心のある研究者の傍線や書き込みを本文に同時に表示できるようにならないだろうか。こんなことを考えた一日であった。

なお、丸山眞男さんの旧蔵書は東京女子大学図書館で丸山眞男文庫として、川島武宜さんの旧叢書は札幌大学図書館で川島文庫として公開されている。川島文庫はサイトが長らく公開されていたが、図書館サイトのリニューアルによって消滅してしまたようだ。一日も早く再開してほしい。

丸山眞男記念文庫(東京女子大学図書館)
http://library.twcu.ac.jp/information/maruyama.htm
札幌大学図書館
http://www.sapporo-u.ac.jp/lib/