2008-02-28(Thu): 大学図書館問題研究会神奈川支部2008年2月例会で講演

大学図書館問題研究会神奈川支部2008年2月例会で「図書館の魅力を考える−なぜ、図書館に関わるのか」と題して講演。

・「図書館の魅力を考える−なぜ、図書館に関わるのか」【PPT】
http://www.ne.jp/asahi/coffee/house/doc/daitoken_kanagawa(20080228).ppt
大学図書館問題研究会神奈川支部
http://book.geocities.jp/dtkkng/

お声がけくださった長谷川豊祐さんをはじめ、お越しいただいた方々に感謝。長年お目にかかりたいと思っていた方々、そして初めてお目にかかる方々との出会いがうれしい。

・図書館員のためのインターネット(長谷川豊祐さん)
http://www2d.biglobe.ne.jp/~st886ngw/

アメリカ教育使節団報告書 (講談社学術文庫)

さて、話題にしたアメリカ教育使節団報告書だが、文部科学省のサイトで要旨が公開されているほか、講談社学術文庫で全訳が刊行されている。

・米国教育使節団報告書(要旨)
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpbz198102/hpbz198102_2_034.html
・『アメリカ教育使節団報告書』(村井実訳、講談社学術文庫、1979年、672円)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4061582534/arg-22/

また、占領期の日本の図書館政策については、根本彰さんらによる

・占領期図書館史プロジェクト
http://plng.p.u-tokyo.ac.jp/text/senryoki/
・「占領期における図書館政策の推移−CIE関係文書による」
http://plng.p.u-tokyo.ac.jp/text/senryoki/gakkai99p.html

が詳しい。

三酔人経綸問答 (岩波文庫)

また、「恩賜的民権と回復的民権」の話は、

・『三酔人経綸問答』(中江兆民著、桑原武夫・島田虔次訳、岩波文庫、1965年、630円)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4003311019/arg-22/

に出てくる。中江兆民その人については、国立国会図書館の近代日本人の肖像をまず参照。

・近代日本人の肖像 - 中江兆民
http://www.ndl.go.jp/portrait/datas/302.html

ちなみにここからたどれるが、『三酔人経綸問答』をはじめ中江兆民の著作の多くが近代デジタルライブラリーで公開されている。

その他、質問いただいた点について若干の補足を。

図書館、特に大学図書館のサイトが個性的で輝いていた時代があったとしたら、それは初期の手作りの時期ではないか、というご指摘をいただいた。ほぼその通りと思う。このテーマは非常に興味深く、ぜひ図書館学・図書館情報学を専攻する学生・院生の方々には、日本の大学図書館サイトの歴史を研究テーマにしてほしい。大学図書館員の世代交代も進みつつある。初期の大学図書館サイトの実情を発信者の側から証言できる方々が徐々に大学や大学図書館から消えつつある。だが、いまならインタビューに基づきつつ、非常に資料的の価値が高い研究ができるのではないか。

図書館の貸出記録についてご質問いただき、懇親会でも話題になった。この話題はウェブではいささか下火になっているが、図書館システム、というよりはシステム全般に詳しくない方々にわかりやすい形で議論をまとめる必要をあらためて感じた。是非の判断以前に、仮に貸出記録を利用するとした場合、どのような活用方法があるのか、そして個人に関わるセンシティブな情報をどのように扱うのか、といった点についてきちんととりまとめたいと思う。

・「図書館での貸出記録の保存をめぐって−行政は説明責任を果たし、市民は慎重で冷静な議論を」(編集日誌、2008-01-16)
http://d.hatena.ne.jp/arg/20080117/1200557466
・「図書館での貸出記録の保存をめぐって−行政は説明責任を果たし、市民は慎重で冷静な議論を(2)」(編集日誌、2008-01-19)
http://d.hatena.ne.jp/arg/20080120/1200806738

なお、上記の日誌を書いた後、何人かの方々に教えていただいたのだが、

・渡邉斉志「知的自由の陥穽−利用情報保護思想が公立図書館に及ぼす影響の分析」

という文献が

・『Library and Information Science』58(三田図書館・情報学会、2007年)
http://www.slis.keio.ac.jp/~ueda/mslis/lis05.html#no58

に掲載されているという。自分自身、未見なのだが早々に入手して読んでみようと思う。
最後にいただいた質問は多岐に渡るコメントだったが、ここでは一点だけふれておきたい。私はいまのところ図書館員一人ひとりの自覚と向上を訴えることが多いわけだが、個々人が認識や技量を向上させた後、組織はどうなるのか、という点である。確かに図書館は組織である。一人の力だけで図書館が機能し、さらには変化するわけではない。個々人を超える力をどのように生み出し、組織の変化へとつなげていけるのだろうか。これは図書館に閉ざされた話ではない。大学図書館の場合は大学全体に、公共図書館の場合は自治体全体にも関わる話だ。大学における図書館の位置づけや、自治体における図書館の位置づけを変えていくには、より広範囲の利害関係者に影響を与えなくてはいけないし、影響を与えるべき範囲は利用者であり、負担者である学生や教員、あるいは市民にまで及ぶだろう。

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個人の覚醒を組織の変化につなげるにはどうすればいいのか? 難問としかいいようがないが、いま自分ができることとしては、外部の力として私を利用してもらうということだろうか。組織はときとして外の力に弱い。内部に存在する同じ意見は黙殺しても、同じことを外から言われると、組織防衛の意識から賛否はあるにせよ、その意見を見過ごしにはできなくなる。私はおそらくは図書館のなかの人にはならないだろう。図書館を中心とするならば、辺境までには遠ざからず、その周辺に居続けようと思う。私に限らず、図書館を周辺からみている人間を見出し、その声に耳を傾け、その声を道具として使っていくクレバーさが求められるのではないかと思う。

なお、直接的に関係しないが、この記事を書きながら、ふと映画「THE MATRIX」を思い出し、いま第1作から見始めている。

THE MATRIX TRILOGY
http://whatisthematrix.warnerbros.com/