2008-06-06(Fri): NIIオープンハウス2日目−ワークショップ「CiNiiのいま、これから」で講演

screenshot

昨日に引き続き、NIIオープンハウスに参加。

・「NIIオープンハウス1日目−オープンハウスの意義」(編集日誌、2008-06-05
http://d.hatena.ne.jp/arg/20080607/1212801280

本日は午前中に開催されたワークショップワークショップ「次世代の目録所在情報サービスを考える」を聴講し、午後の「CiNiiのいま、これから」で講演。

すでに詳細がブログ「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」で公開されている。

・「<速報>NIIオープンハウス2008に行ってきたよ」(かたつむりは電子図書館の夢をみるか、2008-06-06)
http://d.hatena.ne.jp/min2-fly/20080606/1212768643
・「次世代の目録所在情報サービスを考える」(かたつむりは電子図書館の夢をみるか、2008-06-06)
http://d.hatena.ne.jp/min2-fly/20080606/1212768644
・「CiNiiのいま、これから」(かたつむりは電子図書館の夢をみるか、2008-06-06)
http://d.hatena.ne.jp/min2-fly/20080606/1212774613

「次世代の目録所在情報サービスを考える」についての感想を少々。2008年3月に公表された「次世代の目録所在情報サービスのあり方について」(中間報告)を受けて、13名のワーキンググループ構成員から以下の4名がまず説明を行った(敬称略)。

  1. 佐藤義則東北学院大学
  2. 加藤信哉(東北大学附属図書館)
  3. 渡邊隆弘(帝塚山学院大学
  4. 竹内比呂也(千葉大学

・「次世代の目録所在情報サービスのあり方について」(中間報告)
http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/archive/project/catwg_interim.html
・「国立情報学研究所(NI)、「次世代目録所在情報サービスの在り方について(中間報告)」を公開(2008-03-31)」(新着・新発見リソース、2008-04-14
http://d.hatena.ne.jp/arg/20080414/1208127526

その後、以下の各氏がコメントを加えた上で聴衆からの質疑を交えたパネルディスカッションへ(敬称略)。

  1. 原田隆史(慶應義塾大学
  2. 高橋努筑波大学附属図書館)
  3. 長谷川豊祐(鶴見大学図書館)

データ作成等の分担作業の負担について二極化の傾向がみられるという箇所が興味深かった。正直なところ、パレートの法則に照らせば二極化するにしても上出来な傾向ではないかと思ったが、さすがにそのようなコメントはできず、ここはおとなしくしておいた。参加館の間でのインセンティブをどのように築くかという話があったが、ここは少し細分化が必要と思う。一口にインセンティブといっても、

  1. 分担を担う参加館のモチベーションを維持するためのインセンティブ
  2. 分担を担わない参加館のモチベーションを喚起するためのインセンティブ
  3. 分担に加わっていない非参加館のモチベーションを発動するためのインセンティブ

があるだろう。また、インセンティブとして機能する報酬が、

  1. 金銭
  2. 名誉

のいずれなのか、その内実も考えなくてはいけない。自分自身は、NACSIS-CATは共同分担ではなく集中管理を主とした総合目録に転換していくべきではないかと思わなくもない。だが、大学図書館の世界では実際のところどのように考えられているのだろう。

さて、API公開の件については、自分も質問させていただいた。様々な論点があるだろうが、私自身は共同分担でつくってきた目録の財産権がどこにあるのかが気になる。そもそも最初の段階、つまり各図書館が共同目録事業に参加した時点ではどのように取り決められていたのだろうか。

さて、午後はワークショップ「CiNiiのいま、これから」にパネリストとして参加。参加者の顔ぶれは以下の通り。

  1. 清水馨(千葉大学)「研究者から見たCiNii」
  2. 筑木一郎(京都大学附属図書館)「図書館員から見たCiNii」
  3. 岡本真(ACADEMIC RESOURCE GUIDE)「情報リソース専門家から見たCiNii」
  4. 篠原稔和(ソシオメディア株式会社)「情報デザイン専門家から見たCiNii」
  5. 大向一輝(NII学術コンテンツサービス研究開発センター) 「新CiNii開発の立場から」

なお、私の資料を公開しておく。

・「CiNiiのいま、これから−情報リソース専門家の立場からのオープン化提案」【PPT】
http://www.ne.jp/asahi/coffee/house/doc/nii_openhouse(20080606).ppt
国立情報学研究所オープンハウス ワークショップ「CiNiiのいま、これから」、2008-06-06、於・学術総合センター

他の方々の分も含めて、当日の資料は追ってNIIのサイトで公開されると思われる。以下、気になった個所をメモとして。

冒頭に尾城孝一さん(国立情報学研究所)が「CommonsとしてのCiNii」といった趣旨の話をした後、今日の催しはワークショップというよりはフォーラムであり、日本語でいえば寄り合いといえるのではないか、と述べていたのが印象的。「寄り合い」は秀逸な表現と感心することしきり。

その後はまず、一人の研究者としての立場からの清水馨さんの話。CiNiiという言葉の認知度(読み方)が研究者間で著しく低いという指摘にはうなずく。少し話が変わるが、機関リポジトリに愛称をつけたところで終わっている大学図書館の関係者には他人事には聞こえないのではないだろうか。

・「機関リポジトリの愛称」(編集日誌、2007-12-20
http://d.hatena.ne.jp/arg/20071224/1198431856

清水さんの話でCiNiiに本文を読んだかどうかがわかる履歴機能がほしいというものがあった。これは深く同感。自分がその文献の書誌詳細ページを訪問したのが何回目なのか、すでにダウンロードしているのか等がわかるとうれしい。また、清水さんは本文のキーワード検索は不要と述べていたが、検索結果が増えすぎるという理由であれば、ここは技術的に解決すべきことだろうと思う。せっかく本文を持っている以上、本文を検索対象にしない理由はないように思う。

続いて、筑木一郎さん(京都大学附属図書館)の話。京都大学附属図書館が昨今、コンテンツプロバイダーとして機能しつつある様がよくわかった。会場設備の関係で京都大学附属図書館のサイト内からCiNiiにアクセスするデモンストレーションができなかったのは残念。もう一つ、筑木さんの話でうなずいたところがある。それは今のタイミングでCiNiiののゴールを考えるなら、「日本(語)の論文を探すならCiNii」と呼ばれる存在へなるべきだという提案。CiNiiに限らないが、こういうビジョンを明確に定めることはものつくりでは重要だ。ことに改変が容易なウェブサイトのようなソフト物には特にいえる。

3番手は私自身。資料に載せずに話した箇所だけ補っておきたい。CiNiiの現状への不満として「つながりのなさ」を挙げた際にこれまで紙に書いたものが30本と述べたが、1本数え間違いがあったのでまずお詫びして修正したい。正しくは29本となる。この29本のうち、CiNiiに書誌が収録されているのが20本、本文まで収録されているのが3本となる。そして、この3本に他で公開されているものを加えると本文が公開されているのが13本。この13本のうち4本はCiNiiに書誌が収められておらず、書誌が収められていても本文へのリンクがないものが6本となる。

私の次は篠原稔和さん(ソシオメディア)が登壇。同社が実施したCiNiiのユーザー調査では、サービスの訴求点や存在意義として

  1. 信頼性の高さ
  2. 本文閲覧の即時性

が挙がっていたのが印象的。そして、「偏在・遍在の世界」という巧みな言葉遣いに感心させられた。

最後は大向一輝さん(NII)。まずプレゼンテーションのタイトルをワークショップの共通題である「CiNiiのいま、これから」から少しアレンジして、「CiNiiのいま、これからのCiNii」としていたことに感心させられた。一工夫が光る。話の中では、現行のCiNiiの運営にあたって心がけていることにうなずかされる。「来たトラフィックは逃がさない」「すべてのページをポータルに」は、株式会社グルコースの一員でもある大向さんだからこその貪欲さだろうか。

さて、その後はフロアからの質問を交えたディスカッションになったが、自分としては、

  1. 対エンドユーザー無償化を実現するエコシステムはどのようなものか
  2. CiNiiのユーザー層をどのように想定・定義するか

が気になるところだ。なお、質疑の中でふれたCiNiiのサービスに関するアンケートの比較分析は早々に公開したいと思っている。

・「(国立情報学研究所(NII)、CiNiiのサービスに関するアンケート結果概要を公開」新着・新発見リソース、2006-11-24
http://d.hatena.ne.jp/arg/20061124/1164312166
・「国立情報学研究所(NII)、CiNiiのサービスに関するアンケートを実施」(新着・新発見リソース、2007-11-11)
http://d.hatena.ne.jp/arg/20071111/1194793216

さて、最後に司会の阿蘓品治夫さん(国立情報学研究所)が今回のワークショップはあくまで始まりであり、序章に過ぎない旨を述べていた。まさにその通りだと思うし、そうあってほしい。冒頭に尾城さんが使った「寄り合い」のような形で継続していくと理想的だろう。

ともあれ、長い一日であったが、充足感にも満ちた一日であった。参加してくださた方々はもとより、他のパネリストの方々、そして準備と実施に駆けずり回ってくださったNII職員の方々に心から感謝したい。

・「NIIオープンハウス2008「CiNiiのいま、これから」」(清澄日記、2008-06-03
http://d.hatena.ne.jp/i2k/20080603/nii_openhouse