2008-09-29(Mon): 鈴木忠・森山和道著『クマムシを飼うには−博物学から始めるクマムシ研究』(地人書館、2008年、1470円)

・「鈴木忠・森山和道著『クマムシを飼うには−博物学から始めるクマムシ研究』(地人書館、2008年、1470円)」(編集日誌、2008-07-27)
http://d.hatena.ne.jp/arg/20080727/1217168775

で紹介した

クマムシを飼うには―博物学から始めるクマムシ研究
・鈴木忠・森山和道著『クマムシを飼うには−博物学から始めるクマムシ研究』(地人書館、2008年、1470円)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4805208031/arg-22/

を読了。

著者たちからもAmazonからも併読を薦められている

クマムシ?!―小さな怪物 (岩波 科学ライブラリー)
・鈴木忠著『クマムシ?!−小さな怪物』(岩波書店、2006年、1365円)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4000074628/arg-22/

は未読だが、十分に楽しめた。「本書は『クマムシ?!』の副読本のようになっています」とは、インタビュアーの森山さんの「まえがき」での言葉だが、クマムシへの関心の有無を抜きにしても読み応えがある。また、現在の日本における科学の状況を語る重要な証言でもあるだろう。

通読しての強い印象は、とにかく「わからない」という言葉が随所に出てくること。様々な疑問を投げかけるというよりはつぶやく森山さんに対して、クマムシ研究者である鈴木さんは、気負うことなく「わからない」と返していく。その回数の実に多いこと!

だが、「わからない」ことのほうが多いというのは、科学者の多くが抱く実感だろう。テレビや新聞で1ショット、1コマだけ登場する研究者は何でも知っているかのように見える。それは知っていると思われること、少なくともコメントできることを聞かれているから。だから、どんな衝撃的な事件や事故、あるいは科学上の大発見や大発明であっても、もっともらしいコメントや解説が添えられている。だが、実際の科学の現場では、「わからない」のオンパレードだろう。わかっていることのほうが少なく、わかっていないことのほうが多い。だからこそ、その研究に取り組む価値もある。そんな当たり前のことをあらためて考えさせてくれる一冊だった。

この本がこういった気づきを与えてくれるのは、やはりインタビュー集だからだろう。それも、新聞記者のインタビューによくあるようなもっともらしいコメントを引き出すことに終始するようなインタビューではない。聞き手の森山さんがあらゆる要素に関心を持ち、インタビュー対象である研究者の引き出しをどんどんと開いていく。森山さんの本領と凄味をあらためて実感した一冊。

本書の元となった

・サイエンス・メール
http://moriyama.com/sciencemail/

はぜひ次々と書籍化していってほしい。本が売れないと嘆くだけでなく、出版社にはこのような科学の間口を広げるコンテンツを発掘していってほしいところ。