2008-10-03(Fri): 二村一夫著『労働は神聖なり、結合は勢力なり−高野房太郎とその時代』、読了
・「二村一夫著『労働は神聖なり、結合は勢力なり−高野房太郎とその時代』(岩波書店、2008年、2940円)」(編集日誌、2008-09-27)
http://d.hatena.ne.jp/arg/20080929/1222614944
で新刊として紹介した
・二村一夫著『労働は神聖なり、結合は勢力なり−高野房太郎とその時代』(岩波書店、2008年、2940円)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4000025937/arg-22/
を読了。
高野房太郎といえば、どんなにかんばっても大学受験に備えての日本史の勉強の片隅に出てくる人物というのが大方の記憶だろう。いや、日本史が大学受験の必修科目ではない以上、それすらむしろ例外かもしれない。
そんな高野房太郎という人物の一生が、本書には実に躍動感を持って描かれている。高野の人生のハイライトシーンは、労働組合期成会や鉄工組合を設立し、生協運動のさきがけとなった頃だろう。だが、その期間は実は1897年から1900年までのわずか3年ばかり。その前史であるアメリカを中心とした海外生活は実に10年。日本帰国後、高野は精力的に活動するわけだが、その素養をアメリカ生活の中でどのように磨き深めていったのか、本書の前半部は実に丹念に追いかけている。まさに歴史家の仕事というべきだろう。
多数の史料を読み込んでいるからこそだろう。本書の随所で著者は、従来の学説や理解に対する数々の新説を示している。残念ながら、自分にはその当否を判断することはできないのだが、著者が示した新たな解釈はどのように評価できるのだろうか。ここはぜひ同じ分野の研究者の反応を期待したい。
なお、目次は以下の通り。
- 文明開化の子−長崎時代
- 若き戸主−東京時代
- 諭吉の孫弟子−横浜時代
- 桑港で日本雑貨店を開業−夢の実現と破綻
- 職工義友会を創立−日本労働運動の源流
- アメリカからの通信−日本最初の労働組合論
- アメリカ海軍の水兵−「戦時特派員」を装う
- 職工諸君に寄す−組合結成の呼びかけ
- 労働組合期成会の人びと−労働運動の応援団
- 鉄工組合の誕生−日本最初の労働組合
- 横浜で「共働店」開業−生協運動の先駆
- 鉄工組合の衰退−治安維持法前後
- 高野房太郎と片山潜−指導者としての資質
- 終章「失敗の人」か?
著者の渾身の力作であり、重厚な研究書であるが、同時に評伝として存分に楽しめる。労働問題や生協運動の先駆者として、あるいは海外に出た初期の日本人・明治人として、幅広い層の関心を刺激する一冊である。ぜひ、大勢の方に手に取ってほしい。