2009-04-12(Sun): 読書記録−指宿信編『法情報サービスと図書館の役割』(勉誠出版、2009年、2100円)

勉誠出版からいただいた3冊の本を引き続き読んでいる。

・「いただいた本−『歴史知識学ことはじめ』『レファレンスサービスのための主題・主題分析・統制語彙』『法情報サービスと図書館の役割』」(編集日誌、2009-04-04
http://d.hatena.ne.jp/arg/20090405/1238918528
・「読書記録−横山伊徳、石川徹也編著『歴史知識学ことはじめ』(勉誠出版、2009年、1785円)」(編集日誌、2009-04-09
http://d.hatena.ne.jp/arg/20090412/1239530413

今回は『法情報サービスと図書館の役割』の感想メモ。

・指宿信編『法情報サービスと図書館の役割』(勉誠出版、2009年、2100円)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4585052089/arg-22/

法情報サービスと図書館の役割 (情報とメディア)

本書の位置づけは、編者である指宿信さんが「はしがき」で語っている。

本書は、法律に関する情報、すなわち法情報について、これを利用者に提供することの意味と、そのサービスの有り様について描くと共に、それら法情報に対するアクセスの確保という観点から、図書館やライブラリアンが果たしうる役割について考察を加えたものである。
(1頁)

また、「本書執筆の背景と出発点となる問題状況」を次の3点に整理している。

  1. 司法制度改革での市民に対する法情報サービス提供の不十分さ
  2. 法情報に関する専門職としてのロー・ライブラリアンの未確立
  3. 法学教育における法情報の調査方法のカリキュラムへの未反映

この問題意識から、

  • はしがき(指宿信)
  • 第1章 法情報と図書館(指宿信)
  • 第2章 司法へのアクセスと図書館(早野貴文)
  • 第3章 わが国におけるリーガル・リサーチとライブラリアンの役割(門昇)
  • 第4章 アメリカにおける法律図書館の歴史とロー・ライブラリアン(山本順一)
  • 第5章 米国におけるリーガル・リサーチ教育と、ライブラリアンおよび図書館の役割(中網栄美子)
  • 第6章 地域法サービスにおけるロー・ライブラリアンの役割(岩隈道洋)
  • 第7章 リサーチ・ツール:法情報データベースの現状と課題(齊藤正彰)
  • 第8章 デジタル・コンテンツと紙媒体(いしかわまりこ)
  • 付録 法情報学関連文献および関連サイト目録

http://www.bensey.co.jp/book/2055.html
を基に著者等を追加。

という構成をとっているわけだが、考えうる最高の書き手たちによって個別・全体いずれの観点でもよくまとまった論考が集まっている。特に全編にいえることだが、「こうした問題点ならびに現状の理解への批判的視点と、改革のための考察」(4頁)がバランスよくまとまっている。

・blog of Dr. Makoto Ibusuki(指宿信さん)
http://imak.exblog.jp/

一つだけ難点を挙げれば、執筆陣に本書の中でもその役割が再々言及されている民間出版社の人間がいないことだろうか。また、実現は相当困難と思われるが、立法・行政・司法のいずれかの分野で公職にある方から、本書の趣旨に沿う寄稿があれば、よりいっそう充実したものと思う。とはいえ、これらの点は別に本書の欠点ではない。むしろ、もっと知りたいという好奇心を喚起させるだけの魅力を本書が持っているということの証だろう。
以下は、特に関心を持った章についての個別のメモ。

門昇さんによる第3章「わが国におけるリーガル・リサーチとライブラリアンの役割」は、ぜひライブラリアンに読んでほしい。公共図書館大学図書館といった館種の違いに関わらず、現在、日本のライブラリアンが置かれている状況と課題がよく示されていると思う。

ロー・ライブラリーに勤務しているライブラリアンであるということだけでロー・ライブラリアンとなるわけではない。
(70頁)

という言葉をはじめ、門さんが投げかける数々の指摘を日本のライブラリアンはわが身に引き寄せて考えられるだろうか。

・法情報の世界(門昇さん)
http://www.law.osaka-u.ac.jp/~kado/

山本順一さんの第4章「アメリカにおける法律図書館の歴史とロー・ライブラリアン」からは、非常に大きな示唆を得た。ここで詳しく書くことは避けるが、とにかく山本さんに感謝。

岩隈道洋さんによる第6章「地域法サービスにおけるロー・ライブラリアンの役割」にある

裁判を受ける権利の中には、「法を知る」権利も含まれるはずであると考えるべきなのであろう。
(133頁)

という指摘には強い衝撃を受けた。「知る」権利ということをもっと考えていかなくてはいけない、と強く自戒させられる。

齊藤正彰さんの第7章「リサーチ・ツール:法情報データベースの現状と課題」と、いしかわまりこさんの第8章「デジタル・コンテンツと紙媒体」は、さすがにこのお二人と思わせる内容。紙媒体の情報とウェブ媒体の情報の双方を知り尽くしていればこそ、説得力を持ってウェブで発信される法情報の限界を示している。

・齊藤正彰@北星学園大学(齊藤正彰さん)
http://www.ipc.hokusei.ac.jp/~z00199/
・法情報 資料室 ☆やさしい法律の調べ方☆(いしかわまりこさん)
http://www007.upp.so-net.ne.jp/shirabekata/

齊藤さんのブログによれば、

最初に原稿を提出したのは、2005年4月15日でした。
もちろん、刊行までに何度か改訂しています。

・「法情報サービスと図書館の役割」(お知らせ、2009-03-30)
http://sait-hokusei.blogspot.com/2009/03/blog-post_30.html

とのこと。刊行までに少なくとも4年の歳月を要したわけだ。この間の編者と著者、そして出版社の尽力に驚嘆する。編集期間が長くなること決しては良いことではないが、本書の品質を考えれば、それもまたやむを得なかったのだろう。

さて、反対意見も根強いが、もう1ヶ月後の5月21日には裁判員制度がスタートする。我々一人ひとりが否応なく人を裁く立場に置かれるようになるいまこのときこそ、誰もが手にすべき一冊だろう。

・裁判所 - 裁判員制度
http://www.saibanin.courts.go.jp/
法務省 - よろしく裁判員
http://www.moj.go.jp/SAIBANIN/
・日本弁護士連合会 - はじまります。裁判員制度
http://www.nichibenren.or.jp/ja/citizen_judge/