2006-02-02(Thu): 国立国会図書館、独立行政法人化構想に接して

産経新聞のスクープ(?)。「国会図書館、独法化へ 自民行革本部、国会改革の目玉に」という記事が出る。詳細は記事を参照してほしいが、自民党行政改革推進本部が、2008年度を目途に国立国会図書館独立行政法人化することを求める方針を決めたという。報道によれば、「政府の公務員総人件費削減に合わせたもので、行政機関よりも遅れている国会(立法機関)の改革を進めるための目玉に位置づける」とのことだが、まさに目玉としてねらわれた印象を受ける。

ところで、記事では、「国会図書館の本来業務は、国会議員の立法、調査活動の補佐」とし、「資料の収集、整理や一般への閲覧などの司書業務」や関西館、国際子ども図書館の運営、そして電子化事業を「副業」と扱っている。しかし、国立国会図書館法ではその第二条に

国立国会図書館は、図書及びその他の図書館資料を蒐集し、国会議員の職務の遂行に資するとともに、行政及び司法の各部門に対し、更に日本国民に対し、この法律に規定する図書館奉仕を提供することを目的とする」

と掲げている。国会への貢献が国立国会図書館の主たる役割ではないことは、この条文に明らかだろう。国立国会図書館が、「国立図書館」なのか、「国会図書館」なのか、この点は長年議論になっているところだ。議会に仕える図書館としての役割を重視する考えもあれば、議会への奉仕とは軽視しないものの、唯一の国立図書館として国民に奉仕することもあわせて重視する考えもある。おそらく産経新聞の記者は国立国会図書館法に一瞬目を通すこともなく、取材先である自民党で聞かされた話をそのまま記事にしてしまったのだろう。せっかくのスクープではあるが、その価値を損なう恥ずかしい記事ではないだろうか。

話を国立国会図書館に戻そう。じきに日本図書館協会のような業界団体や一人ひとりの図書館員から声があがるだろうが、私の感想を述べておきたい。

行政改革の一環として国会事務局の改革に取り組むことは、もはや動かしがたい流れだろう。衆議院参議院で別々に事務局を持ち、組織や人員が重複している点は確かに改められるべきことだ。だが、その流れのなかに、国会に属するからといって、国立国会図書館を含めるという前提がそもそも間違っている。地味な衆参両院の事務局を改革するより、国立国会図書館独立行政法人化するほうが、政治的なインパクトが大きいという判断、苦戦しそうな事務局改革より国立国会図書館独立行政法人化はたやすい、という判断が透けて見える。

記事では、「独法化は国会職員の非公務員化と、不透明とされていた運営内容の情報開示を促進するのが主な狙いだが、問題視されていた副業拡大を自由に行えるメリットも生まれてくる」と述べられているが、運営内容の情報開示が不透明である、副業拡大が問題視されている、ということであれば、いっそ一連の行政改革とは別に国立国会図書館だけを対象に本格的な改革に取り組んではどうだろうか。それこそ国立国会図書館の本来業務は何か、という論点にも決着がつけられるというものだ。

今後出されるであろう多くの批判は、おそらく国立国会図書館の文化的な価値や役割を強調するものが多いだろう。社会的な使命を重視する論調も少なくないだろう。私はそのような論点を軽視するわけではないが、国立国会図書館を改革の対象とすることには賛成だ。だが、その改革は国立図書館の使命や役割を根源的に問う発想から生まれなくてはいけない。目玉というのであれば、日本の文化政策・文化行政の改革の目玉という発想で取り組むくらいの覚悟が必要だろう。

それくらいの熱い思いが自民党行政改革推進本部にあるのなら話は違うが、「国会改革の目玉」程度の発想から始まっている今回の提案はとうてい受け入れられない。国立国会図書館から図書館奉仕の提供を受ける権利を持つ日本国民の一人として強くそう思う。

・「国会図書館、独法化へ 自民行革本部、国会改革の目玉に」(産経新聞2006-02-02
http://www.sankei.co.jp/news/060202/sei028.htm
自由民主党行政改革推進本部
http://www.jimin.jp/jimin/gyo/
国会図書館
http://www.ndl.go.jp/
国立国会図書館に関する法規
http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/laws.html
国立国会図書館法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S23/S23HO005.html