2008-10-31(Fri): 正倉院展をのぞき、大学出版部協会編集部会秋季研修会に参加

朝から奈良に入り、まず奈良国立博物館で開催されている

・第60回正倉院展
http://www.narahaku.go.jp/exhib/2008toku/shosoin/shosoin-1.htm
・読売新聞 - 天平の煌めき 正倉院展
http://osaka.yomiuri.co.jp/shosoin/
奈良国立博物館
http://www.narahaku.go.jp/

へ。

正倉院展に来るのは高校生のとき以来。展示されていたのはいずれも名品ばかりなのだが、展示の方法にはまだまだ工夫の余地があると感じたのが正直なところだ。最近、東京国立博物館の展示の工夫に感心するところが多いだけに、物足りなさも残った。特に正倉院御物の多くは、歴史や仏教の知識がある程度なければ、そもそもそれが何なのか、実際にどのように用いられたのか、想像できないものが多い。展示では御物を芸術品として見せるにとどまっているが、実際にどのように使われたのか、その説明をもっと展示の中に盛り込んでほしい。もちろん、正倉院御物と正倉院展の性格上、あれこれと展示に手を加えることが難しいことはよくわかるのだが……。

なお、正倉院展は来週11月10日(月)までの開催。その後、そもそもの目的である大学出版部協会編集部会秋季研修会の会場へ向かったのだが、おりしも興福寺で南円堂と五重塔初層の内陣、さらに北円堂を特別公開していることを知り、寄り道。

興福寺
http://www.kohfukuji.com/

他にも唐招提寺では国宝の校倉(宝蔵)内部を見学できたというが、こちらはさすがに時間がなく断念。

唐招提寺
http://www.toshodaiji.jp/

しかし、こういう情報は現地に行くまでなかなか手に入らず、残念に思う。もっと早く、旅行前にわかっていれば、いろいろと計画も立てられるのだが。と、こういうときにあらためて今夏の第17回京都図書館大会で問題提起した図書館による観光支援の可能性を考えてしまう。

・「第17回京都図書館大会で「いま図書館に求められる新たなウェブ活用戦略」と題して講演」(編集日誌、2008-09-03)
http://d.hatena.ne.jp/arg/20080908/1220885898
・「図書館による観光支援の可能性と実施例」(編集日誌、2008-10-10)
http://d.hatena.ne.jp/arg/20081011/1223715473

偶然にというべきか、年明け早々に奈良で開催される

2009-01-15(Thu)〜2009-01-16(Fri):
全国公共図書館サービス部門研究集会・近畿公共図書館協議会研究集会「新たな地域の情報拠点をめざして−図書館活動と情報発信」
(於・奈良県奈良県立図書情報館)
http://www.library.pref.nara.jp/event/kenkyu.html

で「いま図書館に求められる情報発信とウェブ活用」と題して講演させていただく機会があるので、このテーマについても再考してみたい。

城下町大坂 (大阪大学総合学術博物館叢書)

さて、その後、大学出版部協会編集部会秋季研修会へ。この日は、

大阪大学総合学術博物館・大阪歴史博物館監修『城下町大坂−絵図・地図からみた武士の姿』(大阪大学総合学術博物館叢書3)(大阪大学出版会、2008年、2100円)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4872592131/arg-22/

を題材にした作品ケーススタディ大阪大学出版会の編集担当者と営業担当者からの報告を受けて、全体でのディスカッションという流れだった。自分も幾つか質問・発言したのだが、全体を通して感じたことだけ記しておきたい。

『城下町大坂−絵図・地図からみた武士の姿』は、

・「大阪大学総合学術博物館・大阪歴史博物館監修『城下町大坂−絵図・地図からみた武士の姿』(大阪大学総合学術博物館叢書3)(大阪大学出版会、2008年、2100円)」(編集日誌、2008-10-07)
http://d.hatena.ne.jp/arg/20081011/1223715364

でもふれているように、2008年2月20日(水)から3月31日(月)にかけて大阪歴史博物館で開催された

大阪歴史博物館大阪大学総合学術博物館連携企画 第52回特集展示「城下町大坂」
http://www.mus-his.city.osaka.jp/news/2007/jokamachiosaka.html

の図録である。しかし、通常の図録とは異なり、展示の企画と同時進行で編集が進められたという。展示をみていても、あるいは展示をみていなくても、楽しめる本を意識して企画され、展示品以外の作品も図録に収められている。そのような成り立ちからして、展示の今後のあり方にとっても、図録の今後のあり方にとっても、重要な先行事例となるだろう。

しかし、そのとき展示であれ、図録であれ、デジタルアーカイブのような電子的な発信とは一線を画す独自性をどのように主張していけるのかが、大きな課題と思う。展示は現物の力を主張できるが、図録はどこまでいっても画像という形での複製に過ぎない。図録は図録で独自性をといっても、展示の記録という役割を考えれば、展示とまったくかけ離れたものにすることもできないだろう。正倉院展で感じたのと似た難しさを感じるところだ。たとえば、その資料がどう作られたのか、どう使わたのかという視点から、資料を多様・多角に語ることはできる。だが、それはデジタルアーカイブも同じこと。この点は紙の図録の優位性にはならず、むしろデジタル技術のほうが優勢だろう。

となると、やはり展示全体を通しての物語性を再現することが図録の意義なのだろか、という気もしてくる。これも正倉院展で感じたことだが、たいへんな混雑ということもあり、館内ではスタッフが口ぐちに「決まった順路はありません。空いているところからご覧ください」と説明していた。むしろ、実際の展示においては展示全体の物語性・ストーリー性が崩れてしまっている。とはいえ、展示においてはそれでよいのだろう。展示の見方を押しつけられる必要はなく、来場者は自分のみたいものを自由にみればよい。だが、一連の展示を見終えた後、たとえば帰路についた際に、自分の見方とは違う見方を知るために、あるいは自分の見方と他人の見方を比べる際に、座標軸となるような「正統的」な見方を提示してくれるのが図録というものなのかもしれない。

と、この話題にはまだ結論はないのだが、討論で最後に発言したかったことなので、ここに記しておく次第。

ところで、各大学出版部の方々がそれぞれの所属組織を超えてズバズバと本音で発言し、意見を戦わせる様は非常に心地よかった。図書館系のコミュニティーでも実務者が集まる勉強会で、これくらい突っ込んだ議論ができるとよいなと思う。