東京都立中央図書館、法律情報サービスを開始

東京都立中央図書館が法律情報サービスを開始した(2006-07-14)。かねてから法律情報の提供は、ビジネス支援情報や医療情報の提供に次ぐ、公共図書館の新しい機能として注目されてきたが、今回初めて本格的なサービス提供が始まったことになる。
さて、関係者の努力には敬意を払いつつも、あえて水を差しておきたい。公共図書館が従来のサービスの枠に収まらずに活動領域を広げていくこと自体は歓迎すべきことだろう。それだけ公共図書館が自らの役割を自覚し自負するほどに成熟してきた証と考えたい。だが、いまやビジネス支援が公共図書館界のブームとなっているように、猫も杓子も法律情報の提供に邁進することがないようにしてほしい。公共図書館は基本的には地域に根ざす存在である。その地域の特性や実情に応じて、求められる役割も異なってくる。本当に法律情報の提供が地域の市民のニーズに叶っているのか、その点を慎重に見極めて新しい領域の開拓に進むよう十分に留意すべきだろう。
法律情報だけに絞って考えれば、司法改革の一環として法テラスの整備も進められている。ロースクールの発足によってロースクール併設のローライブラリーが各地の大学に設置されつつある。このように、公共図書館とは別のところで法律情報の担い手は増えている。このような状況のなかで本当に公共図書館が、ましてや弁護士を中心とした法曹人口の多い東京都で東京都立図書館が法律情報サービスの提供に優先的に取り組む必要があるだろうか。もちろん、法律情報の担い手として公共図書館が期待される地域もあり、公共図書館による法律情報の提供は今後行われていかなければいけない。その流れを生み出すために、まずは東京都立図書館が先陣を切ったとみることもできるし、その効果も小さくはない。その意味では東京都立図書館の取り組みを否定はしないが、先に述べたように公共図書館が我先にと法律情報の提供に取り組むようなムーブメントにはしないでほしい。繰り返しになるが、公共図書館にはその地域に応じた独自の課題があるはずだ。まず丁寧にその課題を発見し、自館にこそできることに取り組み、自館こそが果たすべき役割を果たしてほしい。
なお、この話題については『情報の科学と技術』誌の9月号に筆者の論考が掲載される予定である。掲載号が発行された際にはあらためてお知らせしたい。

・法律情報サービス
http://www.library.metro.tokyo.jp/1h/
・東京都立中央図書館
http://www.library.metro.tokyo.jp/12/
・東京都立図書館
http://www.library.metro.tokyo.jp/
・「都立中央図書館が『法律情報サービス』を開始します −公立図書館(都道府県立・政令指定都市立)で初めて−」(東京都教育庁2006-07-12
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2006/07/20g7c300.htm
法務省 - 日本司法支援センター
http://www.moj.go.jp/SHIHOUSHIEN/
日弁連 - 日本司法支援センター
http://www.nichibenren.or.jp/ja/judical_support_center/