ゴメス・コンサルティング、「2007年8月大学サイトランキング」を発表(2007-08-29)

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ゴメス・コンサルティング株式会社が同社が運営するGomezで「2007年8月大学サイトランキング」を発表した(2007-08-29)。同社は「Eコマースサイトをユーザーの視点で評価・ランキング付け」を行うサイトだが、今回は大学のサイトを取り上げている。同社は以前

・Webサイトパフォーマンスランキング - 私立大学
http://www.gomez.co.jp/GPN/gpn_education_university.html
・「「私立大学サイトパフォーマンスランキング」の発表について」(ゴメス・コンサルティング株式会社、2004-11-12)
http://www.gomez.co.jp/company/press/041112b.html

を公表しているが、大学サイトランキングの公表は初めてのことだろう。

調査対象となっているのは同社が定める基準に則って選ばれた約450の4年制大学で学生数が一定数未満の大学や、芸術系、体育系のような一部の単科大学は除かれているという。この約450校のうち、14項目からなる主要調査項目を満たした131大学について本調査を行い、上位50大学が発表されている。本調査は、

  1. ウェブサイトの使いやすさ
  2. 情報公開度・先進性

の2つの切り口に基づく約180の調査項目で行われている。調査期間は2007年6月11日から2007年8月17日。上位5位は以下の通り。

  1. 中央大学
  2. 広島経済大学
  3. 同志社大学
  4. 京都女子大学
  5. 明治大学

・大学サイトランキング
http://www.gomez.co.jp/jp_ranking/id213/
・大学サイトランキング - ウェブサイトの使いやすさ
http://www.gomez.co.jp/jp_ranking/id213/function.html
・大学サイトランキング - 情報公開度・先進性
http://www.gomez.co.jp/jp_ranking/id213/detailed.html

専門的な知見と技能を持つ同社による調査だけに、この大学サイトランキングは相応の影響力を持ちそうだが、一つ気になる点がある。

・大学サイトランキングとは
http://www.gomez.co.jp/jp_ranking/id213/about.html

からわかるように同社の着眼点は進学先・教育機関としての大学の役割に大きく注目している。実際、

・大学サイトランキングの調査方法について
http://www.gomez.co.jp/ranking/method/school_universityl.html

によれば、配点50%の「情報公開度・先進性」は、

  • 入試情報
  • 大学案内に関する情報
  • 講義案内に関する情報
  • 就職情報
  • 決算、数値情報
  • 大学の取り組みに関する情報

などの有無から評価されている。しかし、大学の役割の一つとして「研究」が欠かせないことはいうまでもない。また、たとえば一口に「講義案内に関する情報」といっても、カリキュラムやシラバスが公開されていることと、レジュメが公開されていることと、どちらがより情報が公開されているとみなされるのか、同社の説明では不明な点も少なくない。そもそも大学サイトといったときに、どの範囲までを大学サイトとみなしているのかもわからない。大学図書館のサイトは含まれるのだろうか。各学部や研究科のサイトは含まれるのだろうか。大学サイトのトップページからどの階層・範囲までが、同社のいう大学サイトに組み込まれているのだろうか。

たとえば、あくまで推測ではあるが、現在、一部の有力大学が力を入れているオープンコースウェアOCW)や機関リポジトリは、「情報公開度・先進性」の観点からはほとんど考慮されていないようだ。実際に調べてみたところ、今回発表されたランキング上位50大学のうち、オープンコースウェアOCW)を公開している大学のランク入りは同志社大学(第3位)、立命館大学(第8位)、早稲田大学(第10位)の3大学に限られている。機関リポジトリの場合は、厳密にみれば同志社大学(第3位)、早稲田大学(第10位)、神戸大学(第19位)、法政大学(第26位)、金沢大学(第38位)、岐阜大学(第42位)の6大学に、広島県内の大学で共同で利用している広島県大学図書館共同リポジトリを含めても広島経済大学(第2位)、広島国際大学(第27位)、広島工業大学(第45位)を加えた9大学に限られている。この結果は見方を変えれば、オープンコースウェアOCW)や機関リポジトリの存在のアピール不足ともいえるが、それにしても首をひねりたくなる部分がある。やはり、ランキングとしての正当性を主張するのであれば、同社はランキング手法をさらに公開すべきではないだろうか。

なお、同種のランキングとしては、日経BPコンサルティングによる「全国大学サイト・ユーザビリティ調査」がある。

・全国大学サイト・ユーザビリティ調査2006/2007
http://consult.nikkeibp.co.jp/consult/sales/uni/2006/
・「日経BPコンサルティング調べ−「全国大学サイト・ユーザビリティ調査2006/2007」より−一昨年、昨年に引き続き、大学サイトの「使い勝手」を横断的に評価 ベスト10に4大学が新たにランクイン。中央大学はV2達成」(日経BPコンサルティング、2006-12-19)
http://consult.nikkeibp.co.jp/consult/release/uni061219.html
・全国大学サイト・ユーザビリティ調査2005
http://consult.nikkeibp.co.jp/consult/sales/uni/2005/
・「日経BPコンサルティング調べ 大学サイトの「使い勝手」を横断的に評価 使いやすさのトップに輝いたのは、中央大学−「全国大学サイト・ユーザビリティ調査2005」より−」(日経BPコンサルティング2005-12-14
http://consult.nikkeibp.co.jp/consult/release/uni051214.html

日経BPコンサルティングの調査はユーザビリティ、つまりゴメス・コンサルティングの調査でいう「ウェブサイトの使いやすさ」だけを対象としたものだが、ゴメスの調査では総合得点第1位、ウェブサイトの使いやすさ第2位の中央大学が2年連続で第1位となっている。別々の調査会社によって中央大学に高い評価が与えられていることを見る限り、この種の調査手法には一定の安定性と信頼性があるとみれるのだろうか。

ちなみに、ゴメスの調査で「ウェブサイトの使いやすさ」第1位だった

・静岡理工大学
http://www.sist.ac.jp/

は、日経BPコンサルティングによる全国大学サイト・ユーザビリティ調査2006/2007では上位10位には入っていない。日経BPコンサルティングが調査を実施した2006年9月下旬から12月上旬にかけては、静岡理工大学のサイトはリニューアル前だったことがInternet ArchiveWayback Machineからわかる。

・静岡理工大学の過去のサイト
http://web.archive.org/web/*/http://www.sist.ac.jp/

Wayback Machineでさらに調べてみると、静岡理工大学のサイトは2007年5月13日から翌5月14日の間にリニューアルしたようだ。

・静岡理工大学の2007年5月13日のサイト
http://web.archive.org/web/20070513104359/http://www.sist.ac.jp/
・静岡理工大学の2007年5月14日のサイト
http://web.archive.org/web/20070514191808/http://www.sist.ac.jp/

ゴメスの調査は2007年6月11日から2007年8月17日にかけて実施されており、実にタイミングのよいリニューアルだったといえるだろう。

なお、あくまで受験生の獲得に焦点を絞った内容と思われるが、

2007-09-27(Fri):
大学広報改革セミナー「大学Web広報が変わる!」
(於・東京都/秋葉原コンベンションホール
http://www.artstaff.co.jp/total_lab/seminart/announce2007.html

という有料セミナーが9月末に開催される。この種のセミナーは過去にも株式会社地域科学研究会の高等教育情報センター(KKJ)が「大学Webサイトの検証−編集力と進化」と題したセミナーを4回に渡って開催している。

2007-03-28(Wed):
大学Webサイトの検証−編集力と進化IV「戦略的情報公開/情報の見せ方/ガイドライン」【PDF】
http://www.chiikikagaku-k.co.jp/kkjhp/kako/07032829.pdf

  • 青木茂樹(山梨学院大学)「Web2.0における柔らかいコミュニケーションの模索−メディア戦略室CoPaのコンセプトと戦略課題」
  • 山田礼子同志社大学)「海外のHPに見る大学の戦略〜情報の戦略的な伝え方」
  • 倉部史記工学院大学)「大学ミッションを達成するウェブサイトへの進化−情報公開から積極的開示にシフトするためのPDCA
  • 山下研一(聖学院大学)「小規模大学のネット広報戦略−小さい大学だからできるWEB2.0時代の広報」

2006-09-05(Tue):
大学Webサイトの検証−編集力と進化III「Web2.0/新時代の広報の在り方−利用者が求めるユーザビリティ、双方向メディアの管理・運用」【PDF】
http://www.chiikikagaku-k.co.jp/kkjhp/kako/060905.pdf

  • 藤本良平(産学連携推進機構)「Web2.0 時代の大学の戦略的情報公開−Webサイトでの広報にいま求められること」
  • 山下準吾(アートスタッフ)「目的達成のための大学サイト・マネージメントサイクル」
  • 渡辺純一(中央大学)「情報を提供する側から見たWebサイトの活用−大学のWebを活性化する」

2005-06-16(Thu):
大学Webサイトの検証−編集力と進化II「“知りたい”ことへの情報発信が生む“信頼”/コンテンツの学内収集態勢」【PDF】
http://www.chiikikagaku-k.co.jp/kkjhp/kako/20050616.pdf

2004-08-02(Mon):
大学Webサイトの検証−その編集力と進化【PDF】
http://www.chiikikagaku-k.co.jp/kkjhp/kako/20040802.pdf

  • 妹尾堅一郎東京大学)「大学Webサイトの変容と多様化−四年制大学全数調査、8年間の推移と問題点」
  • 藤本良平(フリージャーナリスト)「Webサイトからみた大学広報の問題と課題−ジャーナリストの視点から」
  • 高橋康夫(現代教育新聞社)「ブロードバンド時代の大学広報と情報発信戦略−ストリーミング(動画配信)の活用事例を中心に」

・地域科学研究会高等教育情報センター(KKJ
http://www.chiikikagaku-k.co.jp/kkjhp/kkj.htm
・地域科学研究会
http://www.chiikikagaku-k.co.jp/

講師の顔ぶれや演題から読み取れるように、やはり大学サイトは受験者獲得のための広報手段として強く意識されているのだろう。それはそれで理解できるが、はたして大学サイトは広報手段という位置づけに留まるものだろうか。

いまや大学における教育と研究はサイトを通して広く発信されている。いや、むしろインターネットの初期は教育や研究の過程と成果を発信するのが大学サイトであったとも思う。オープンコースウェアOCW)や機関リポジトリに限らず、大学サイトから発信されるコンテンツが多種多様となっている現在、大学サイトを広報のための企業サイトと同一にとらえたままでよいのだろうか。たとえば、広報サイトという枠組みを超えて、アカデミックポータルとして位置づけ、それに見合った評価の尺度と指標を設ける時期ではないだろうか。

・大学サイトランキング
http://www.gomez.co.jp/jp_ranking/id213/
・「「2007年8月 大学サイトランキング」の発表について」(ゴメス・コンサルティング株式会社、2007-08-29)
http://www.gomez.co.jp/company/press/070829.html
・「ゴメス・コンサルティング株式会社による「2007年8月 大学サイトランキング」」(大学職員.net -Blog/News-、2007-08-30)
http://blog.university-staff.net/archives/2007/0830/000820078.html
・「今年の大学サイトランキング」(Clear Consideration、2007-08-30)
http://d.hatena.ne.jp/high190/20070830/p1
・「中部大学が大学サイトランキングで7位」(看護系大学ホームページに聞け−かんごがくぶログ、2007-09-05)
http://jukai.jp/modules/xeblog/?action_xeblog_details=1&blog_id=375