京都大学附属図書館、京都大学学術情報リポジトリで京都大学学術出版会発行の研究書を公開(2008-02-01)
京都大学附属図書館が京都大学学術情報リポジトリで京都大学学術出版会発行の研究書を公開した(2008-02-01)。
・京都大学学術出版会発行の研究書
http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/49762
・京都大学学術情報リポジトリ
http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/
・「京都大学学術情報リポジトリと京都大学学術出版会との連携について」(京都大学附属図書館・京都大学学術出版会、2008-02-01)
http://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/modules/bulletin/article.php?storyid=248
・「京都大学学術情報リポジトリと京都大学学術出版会との連携について」(京都大学、2008-02-05)
http://www.kyoto-u.ac.jp/GAD/topic/data07/tpc080205_1/tpc080205_11.htm
刊行されている書籍を大学出版部との共同事業として、機関リポジトリで公開するのは、日本では初めとのことのようだ。なお、現時点で公開されているのは次の5冊。
・『日本語指示体系の歴史』(李長波著、京都大学学術出版会、2002年、 5460円)
http://hdl.handle.net/2433/49763
・『ハイデッガー研究−死と言葉の思索』(小野真著、京都大学学術出版会、2002年、6090円)
http://hdl.handle.net/2433/49764
・『歴史としての生命−自己・非自己循環理論の構築』(村瀬雅俊著、京都大学学術出版会、2000年、5040円)
http://hdl.handle.net/2433/49765
・『気象と大気のレーダーリモートセンシング』(深尾昌一郎・浜津享助著、京都大学学術出版会、2005年、6405円)
http://hdl.handle.net/2433/49766
・『Ecological Destruction, Health, and Development』(古川久雄・河野泰之・西渕光昭・海田能宏著、京都大学学術出版会、2004年、9765円)
http://hdl.handle.net/2433/49767
京都大学の説明によれば、
絶版の研究書はもちろん、現在販売中の研究書も公開対象としていきます。
・「京都大学学術情報リポジトリと京都大学学術出版会との連携について」(京都大学、2008-02-05)
http://www.kyoto-u.ac.jp/GAD/topic/data07/tpc080205_1/tpc080205_11.htm
とされており、事実今回公開された5冊は依然として流通している。
なお、大学図書館と大学出版部の協業例としては、カレントアウェアネス-Rが
・「ピッツバーグ大学図書館と同大学出版部が共同で出版タイトルのオープンアクセス化に着手」(カレントアウェアネス-R、2007-11-30)
http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/car/index.php?p=4589
で伝えている
・University of Pittsburgh Press Digital Editions
http://digital.library.pitt.edu/p/pittpress/
という先行例がある。
さて、この事業は京都大学附属図書館と京都大学学術出版会の提携によって成り立っているわけだが、国立大学法人である京都大学の附属図書館と、有限責任中間法人である京都大学学術出版会の間では、どのような取り決めがなされたのだろうか興味深い。それぞれの組織の規定を探すと、
第一条 京都大学附属図書館(以下「図書館」という。)は、京都大学に所属する図書その他の資料の管理と運用をつかさどる。
2 前項に定めるもののほか、図書館は、京都大学図書館機構における業務の実施に当たる。・京都大学附属図書館規程【PDF】
http://www3.kulib.kyoto-u.ac.jp/etc/reiki/1/1-1.pdf
がまずみつかる。これだけでは京都大学附属図書館が今回の事業だけでなく、機関リポジトリの運営にあたる根拠に乏しいのだが、第1条の第2項にある「京都大学図書館機構における業務」が鍵になるようだ。「京都大学図書館機構概要2005/2006」の「III. 図書館機構の事業」にある「マネジメント・施設・設備」では「公開事業」として次の事業を定めている。
図書館機構の課題である、学術情報基盤整備、電子ジャーナル・データベースの財政基盤の確立などの問題を特集し、理解を図ると供に、京都大学の所有する学術情報の公開展示を行い、社会貢献も図る。
・京都大学図書館機構概要2005/2006
http://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/modules/about/index.php?content_id=8
また、「京都大学図書館機構の基本理念と目標」ではより明瞭に次のように謳っている。
- 京都大学図書館機構は、全学の図書館機能を十全に発揮して教育・研究を支援するために、学生・教職員のニーズを把握し、それに応えることを最優先する。
- 学術情報基盤としてのコレクションおよび情報サービス体制を構築するために、学術情報を適切に選定、収集、整理し、必要な研究開発を行い、それらへの最善のアクセスを提供する。
- 京都大学が日々創造する世界的に卓越した知的成果の蓄積・発信を行う。
- 京都大学が保有する人類の知的資産を将来にわたって利用できるような保存管理体制を整備する。
・京都大学図書館機構の基本理念と目標
http://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/modules/about/index.php?content_id=15
これらを根拠に京都大学附属図書館が機関リポジトリの運用にあたり、「京都大学が日々創造する世界的に卓越した知的成果の蓄積・発信を行う」ために京都大学学術出版会が有する京都大学発のコンテンツに目をつけたということだろうか。
他方、京都大学学術出版会は定款において次のように定めている。
本法人は、京都大学における教育研究活動を中心とする学術的成果を、主として出版活動を通じて、広くわが国および国際社会に公表・普及し、もって教育研究の振興と文化の向上に寄与することを目的とする。
ここにある「出版活動」にインターネットを通じた発信を含めるのであれば、今回の連携が京都大学発の知的成果を両者が一体となって取り扱っていくことが、それぞれの機関にとって妥当であり、当然の選択肢であることがみえてくる。
・京都大学附属図書館
http://www3.kulib.kyoto-u.ac.jp/
・京都大学学術出版会
http://www.kyoto-up.or.jp/
・京都大学図書館機構
http://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/
ただ、法人としてはあくまで別個の存在である両者が、今回の連携をどのように成立させているのか、気になるところではある。あえていえば、京都大学学術出版会が京都大学附属図書館に対して自社が保有する資産をおそらく無償で提供しているわけだが、この取引は法的にはどのように裏付けられているのだろうか。おそらくは京都大学学術出版会において京都大学附属図書館との連携を実施するための決議を行っているものと思われるが、どのようなプロセスを経て今回の企画が実現に至っているのか、大学出版部と機関リポジトリを同時に有するほかの大学の参考のためにも情報を提供してほしい。
ちなみに、大学出版部と機関リポジトリを共に持つ大学は調査の限りでは以下の22校あり、京都大学学術出版会と同様に有限責任中間法人である出版部はほかに2つある。
- 北海道大学
- 小樽商科大学
- 弘前大学
- 東北大学
- 山形大学
- 筑波大学
- 東京大学
- 東京大学出版会(財団法人)
- UT Repository
- 東京外国語大学
- 東京学芸大学
- 富山大学
- 名古屋大学
- 名古屋大学出版会(財団法人)
- NAGOYA Repository
- 三重大学
- 京都大学
- 大阪大学
- 岡山大学
- 岡山大学出版会(部局)
- ePrints@OUDIR
- 広島大学
- 九州大学
- 慶應義塾大学
- 慶應義塾大学出版会(株式会社)
- KeiO Academic Resource Archive(KOARA)
- 法政大学
- 早稲田大学
- 早稲田大学出版部(株式会社)
- DSpace at Waseda University
- 関西大学
- 関西学院大学