2008-10-09(Thu): 牛山素行著『豪雨の災害情報学』読了

豪雨の災害情報学

・「牛山素行著『豪雨の災害情報学』(古今書院、2008年、3675円)」(編集日誌、2008-09-26)
http://d.hatena.ne.jp/arg/20080929/1222614945

で紹介した

・牛山素行著『豪雨の災害情報学』(古今書院、2008年、3675円)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4772231145/arg-22/

を読み終える。

書評にまとめるほどには読みこめていないので、まずはメモ程度に。

著者自身は本書を、

「リアルタイム情報によって被害が軽減された」とか、「早期避難により人的被害をゼロにした」といったことは、自明なことだと感じられるかも知れないが、実は、これらのことを具体的・定量的に示した調査研究例はほとんど無い。本書の取り組みは、日本の防災に関係する事項で定性的によく言われることを、少しでも定量的に示すことを目指した試行錯誤であるといってもよい。
(ii頁)

と位置づけている。通読して、この位置づけに深くうなずく。一見、自明のことと思って看過してしまいがちなことに対し、著者が丁寧に実態を検証していくさまは、専門分野に関わらず科学の方法論としても参考になると思う。

また、たとえば降水量のような記録と過去の災害のような記憶を扱っているだけに、図書館やアーカイブズの関係者は様々な示唆を得られる一冊だろう。印象的な一節をいくつか紹介しておきたい。

降水量の「記録的」「過去最大」といった情報源としては、気象庁AMeDASデータが使われることがほとんどである。しかし、AMeDASの全国展開完了は1978年であり、その蓄積は30年程度にすぎない。AMeDASより前のデータは「役に立たない」などということはなく。「デジタル化されていないので使いにくい」にすぎない。われわれの先人たちは、その時代ごとの持てる力を最大限に発揮して、後生に貴重な災害の記録を残し続けてくれている。われわれは、その記録をもっと有効に活用すべきではなかろうか。
(31頁)

広島市周辺地域においては、今回事例を大きく上回る規模の豪雨災害が過去に何回か発生していたことが今回確認された。しかし、それらはいずれも30年以上前の古い記録であったため、住民らの記憶から消え去ってしまっていたことが考えられる。
(61頁)

どちらも図書館やアーカイブズの役割に引き寄せて考えられる指摘ではないだろうか。また、図書館やアーカイブズが災害の記録と記憶についてどのような貢献ができるのか、という観点でも議論を深められるだろう。言うなれば「防災支援」の可能性である。

その他、ウェブサイトを中心に学術情報資源のあり方に関心を持つ自分としては、第3章「認知されない・使われないリアルタイム水文情報−2002年7月台風6号および前線による豪雨災害」の衝撃が大きかった。サービスを提供することは重要だが、その先にある幅広い利用・活用をどのように実現するのか、引き続き考えていかなくてはいけないだろう。

・「「豪雨の災害情報学」刊行」(豪雨災害と防災情報を研究するdisaster-i.net別館、2008-09-22)
http://disaster-i.cocolog-nifty.com/blog/2008/09/post-c98e.html