2006-01-23(Mon):

独立行政法人理化学研究所が「科学研究上の不正行為への基本的対応方針」制定のお知らせを公開した。研究者による不正行為が続発しているため、その対応ということだろうか。さて、この指針だが、明確に「不正行為」と言い切っているところがよい。最近、他の研究機関では、不正行為を指して「ミスコンダクト」(Misconduct)と表現することが多いようだ。しかし、「ミスコンダクト」では何のことだかわからない。たとえば、独立行政法人産業技術総合研究所は「独立行政法人産業技術総合研究所における研究ミスコンダクトへの対応に関する規程」にみられるように頻繁に「ミスコンダクト」という言葉を使っている。第2条で早速、研究ミスコンダクトを以下のように定義している。

「研究ミスコンダクト」とは、研究成果物等(独立行政法人産業技術総合研究所研究成果物等取扱規程(13規程第45号)第3条第1項に定めるものをいう。以下同じ。)の作成に係るねつ造、偽造及びひょう窃をいう。

要するに、「ねつ造、偽造及びひょう窃」ということだろう。それなら理化学研究所のように研究上の不正行為とまとめてよいのではないか。ミスコンダクトという言い方はわかりにくく、そのぶん事の本質を覆い隠しているように思える。ちなみに「ミスコンダクト」という言葉は、2005年7月21日に日本学術会議が発表した「科学におけるミスコンダクトの現状と対策−科学者コミュニティの自律に向けて−」が多分に影響しているようだ。この報告書では、なぜ「不正行為」ではなく、「ミスコンダクト」と呼ぶのか、その理由を述べている。

科学上の「ミスコンダクト」とは、第18期に「不正行為」としたものとほぼ同義で、捏造(Fabrication)、改ざん(Falsification)、盗用(Plagiarism)(FFP)を中心とした、科学研究の遂行上における非倫理的行為を指している。不法性、違法性よりも倫理性、道徳性を重視する意味で、また、対象として広く社会規範からの逸脱行為も視野に入れておくために、今期は、あえて「ミスコンダクト」と呼ぶこととした。

この説明を読んでも、「不正行為」を「ミスコンダクト」とする理由がわからない。要するに英語のScientific Misconductをカタカナにしただけではないだろうか。やはり物事の本質を覆い隠すカタカナ言葉への言い換えに過ぎないように思える。「ミスコンダクト」のままでは、国立国語研究所「外来語」委員会から「外来語」言い換え提案を受けるのが必至だろう。「不正行為」に真剣に向き合うのであれば、まずは「不正行為」という強い言葉と向き合ってほしい。


・「科学研究上の不正行為への基本的対応方針」制定のお知らせ
http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2006/060123/
独立行政法人理化学研究所
http://www.riken.jp/
独立行政法人産業技術総合研究所における研究ミスコンダクトへの対応に関する規程
http://unit.aist.go.jp/genadm/legal/kitei/misconduct.html
独立行政法人産業技術総合研究所
http://www.aist.go.jp/
・科学におけるミスコンダクトの現状と対策−科学者コミュニティの自律に向けて−(2005-07-21)【PDF】
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-19-t1031-8.pdf
日本学術会議
http://www.scj.go.jp/
国立国語研究所「外来語」委員会
http://www.kokken.go.jp/public/gairaigo/
国立国語研究所
http://www.kokken.go.jp/