2008-09-19(Fri): 全国図書館大会第94回兵庫大会で「「Web2.0時代」における図書館の自由」について発表・討議

全国図書館大会2日目。

2008-09-19(Fri)
全国図書館大会第94回兵庫大会 第7分科会「図書館の自由」「「Web2.0時代」における図書館の自由」
(於・兵庫県神戸学院大学ポートアイランドキャンパス)
http://www.jla.or.jp/jiyu/taikai2008.html

で、

・「Web2.0時代の図書館サービス−特に「利用情報」活用の可能性と課題」【PPT】
http://www.ne.jp/asahi/coffee/house/doc/conf_of_library_hyogo(20080919).ppt

と題して発表し、その後の全体討議「『Web2.0時代』の図書館の自由にむけて」に参加した。

なお、全体の構成は以下の通り。

  • 基調報告
    • 山家篤夫(日本図書館協会図書館の自由委員会委員長)「図書館の自由・この1年」
  • 事例発表
    • 高鍬裕樹(大阪教育大学)「利用記録と利用者の秘密−歴史的概観・法制度から今後の展開へ」
    • 岡本真(ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG))「Web2.0時代の図書館サービス−特に「利用情報」活用の可能性と課題」
    • 佐浦敬之(筑波大学大学院図書館情報メディア研究科)「貸出履歴の利用に関する意識調査について−意識調査の概要と結果」
    • 高野一枝(NECネクサソリューションズ)「図書館システムの動向と公共図書館の現場」
  • 全体討議「『Web2.0時代』の図書館の自由にむけて」

冒頭の山家さんの話は2008年のこれまでの動向をまとめたもの。今回のテーマに深く関わる練馬区立図書館の貸出記録利用問題に始まり、最近起きた国立国会図書館による米兵裁判資料の閲覧制限問題や堺市立図書館のBL本問題、青少年ネット規制法や『僕はパパを殺すことに決めた』調査委員会の報告書について概観する。

前2者について詳しくは、

・「国立国会図書館が閲覧制限かけたという資料が閲覧できる図書館を意地になって探してみた」(かたつむりは電子図書館の夢をみるか、2008-08-14
http://d.hatena.ne.jp/min2-fly/20080814/1218695490
・「図書館にある時点で部外秘になってないことに気づけば良かったんだよ」(かたつむりは電子図書館の夢をみるか、2008-08-24)
http://d.hatena.ne.jp/min2-fly/20080824/1219600256
・「もう4,000冊くらいBL小説があっても良かったのかもしれない??」(かたつむりは電子図書館の夢をみるか、2008-09-11)
http://d.hatena.ne.jp/min2-fly/20080911/1221128343

を参照。ただ、国立国会図書館の閲覧制限問題で参議院議員世耕弘成さん(自民党)が、自身のブログで、

極秘マーク付きの行政文書を国会図書館で閲覧できるようにしたこと自体が問題だ。

・「9月17日(水)」(世耕日記、2008-09-17)
http://210.165.9.64/newseko/e/1f453082aa5131d68d8327b2efcbb542

と発言しているということには驚いた。短い文章なのでご本人の意図を確実にはつかみかねるが、国立国会図書館は議員活動を支援するという役割を持つことを考えれば、国会議員の調査権を自ら弱める発想ではないだろうか。

閑話休題

山家さんの基調報告の後、各自が40分ずつ発表。その後、2時間の全体討議を行った。各発表の内容や討議の状況は後日刊行される記録集を参照いただきたい。ここでは自分の発言内容についていくつか補足しておきたい。

発表と討論は、高鍬さんが基本的には利用情報の活用を否定するのに対し、自分が利用情報の活用を全面的に肯定するという賛否両論がまずあり、そこに佐浦さんが利用者意識調査という形で基盤となるデータを提供し、高野さんが図書館システムの開発・納入業者の立場から現状を語るという図式であったと思う。論点を明確にする意図もあったのだろうが、否定的な立場を鮮明にしてくださった高鍬さんにまず感謝したい。

さて、高鍬さんの見解に対して幾つか反論したが、まずこの点を補足しておこう。高鍬さんは反対論においては、「萎縮効果」論と「法の下の平等」論ともいうべき話があった。「萎縮効果」論については要綱でこう述べている。

利用記録が開示されるとの恐れを利用者が持った場合、社会の言論活動は委縮することになる。そして、利用記録が消去されずに残ることは、人びとが恐れを抱く理由として十分である。
図書館は公的機関であり、社会において最低限を支える役割を持つ。より便利なサービスを提供し、そのことで一部の利用者が萎縮する結果を招くのと、仮に若干不便であったとしてもすべての利用者が気兼ねなく使えるのと、どちらが図書館が果たすべき役割であろうか。
(132頁)

これらのサービスを行う場合に避けねばならないことは、誤解による萎縮効果を生むことである。例えば、貸出利用記録についてオプトインを採用し、図書館利用者の希望によってその人の利用記録を蓄積するサービスを行う場合、蓄積を希望しなかった人の間に疑心暗鬼が生まれる可能性がある。そして、そのような恐れを抱いた利用者は、おそらく何も言わずに図書館を利用しなくなるであろう。
(133頁)

そもそもこのケースで「萎縮効果」という言葉が妥当なのか疑問に思うところもあるが、ともあれ利用記録を使わないという選択肢を提供するとした場合でも、非利用者に萎縮効果をもたらすというのは理屈にすぎると思う。それを言い出したら、実質的に選択の余地がない状況で提供されている住民基本台帳ネットワークと住民基本台帳カードはどうなる?ということにならないだろうか。

もう一つの「法の下の平等」論については、すでに

・「法の下の平等」とレコメンドサービス」(愚智提衡而立治之至也、2008-01-29)
http://jurosodoh.cocolog-nifty.com/memorandum/2008/01/post_5f61.html

で論じられている。公共サービスとして、「法の下の平等」を考えることは重要だが、結果の平等を重視するあまり、機会の平等を損なうのはナンセンスではないだろうか。そもそも、「法の下の平等」を持ち出すのであれば、現在各地の公共図書館が力を入れている様々な支援サービス、特に実質的な起業支援であるビジネス支援サービスのほうが、サービス対象である市民すべてに直接的な恩恵があるわけではなく、「法の下の平等」に反するのではないだろうか(同時に「受益者負担の原則」にも)。

全体討議での気になる点として、図書館の自由を語る上で「公権力」よる介入ばかりが意識されていることがあった。自分の発表でもふれたが、利用情報を保存する上でのリスクは、

  1. 外部からの圧力
  2. 内部からの漏洩

に分けられる。とかく警察による捜査・押収が意識されがちだが、リスクの確率からいえば、図書館内部での利用情報の業務目的外閲覧や外部流出の可能性のほうが高いことを考えるべきと思う。そして、図書館、特に公共図書館は自らが「公権力」そのものであることを意識すべきだろう。公共図書館が「公権力」と別個に存在しているのではない。公共図書館そのものが「公権力」の一つなのである。

もう一つ。最後にそもそも利用情報は誰のものか?という発言をした。今回の分科会を通してこの疑問が最も強い。廃棄するにせよ、保存するにせよ、図書館が利用情報を図書館の持ち物という意識でいてよいのだろうか。ここは自分自身、もう少し考えたい。

他にも論点は尽きないが、とりあえずここまで。私自身は今日の分科会でこの問題にいい加減に結論を出したかったが、そこまで到達できず非常に残念に思っている。もちろん、引き続き考えていくということは、それはそれでよいのだが、どうか図書館を運営する側にいる方々には、我が事として当事者意識を持って考えてほしいと思う。

全体討議の中で述べたように、今回登壇した4名はいずれも図書館の運営側で働いているわけではない。誤解を恐れずに言えば、どこまでもいっても図書館の主体ではなく、図書館が今後どうなっていこうが、直接的には関係のない立場にある。わかりやすく言えば、図書館が魅力的なサービスを提供できない結果、設置組織の中で予算が削減され人員が削減されても、たとえば解雇・失職という形で直接的な被害を受けるわけではない。要するに、究極的には登壇者はライブラリアンにとって他人である。だからこそ、図書館で働き、そこで生活の糧を得ている方々自身が、どう考えるかが重要なのだ。どうか、「図書館の自由」を盾に思考を停止したり、放棄せず、我が事として切実に考えてほしい、そう願う。

・「全国図書館大会に向けて−参加者の方々に望むこと」(編集日誌、2008-09-14)
http://d.hatena.ne.jp/arg/20080914/1221397659
・「昨日の「全国図書館大会に向けて−参加者の方々に望むこと」への補遺」(編集日誌、2008-09-15)
http://d.hatena.ne.jp/arg/20080915/1221487874
・「全国図書館大会用の参考資料−特にブログの記事を中心に」(編集日誌、2008-09-16)
http://d.hatena.ne.jp/arg/20080917/1221598574
・「いよいよ明日から全国図書館大会」(編集日誌、2008-09-17)
http://d.hatena.ne.jp/arg/20080918/1221665477
・「全国図書館大会1日目−震災のこと、ポートピアのこと、懇親会のこと」(編集日誌、2008-09-18)
http://d.hatena.ne.jp/arg/20080921/1221961102