2008-10-04(Sat): 日本アーカイブズ学会 2008年度第1回研究集会「デジタル情報技術が拓くアーカイブズの可能性」でコメント

・「10月4日(土)、日本アーカイブズ学会へのお誘い@学習院大学」(編集日誌、2008-09-28
http://d.hatena.ne.jp/arg/20080929/1222618102

で伝えていたように、

2008-10-04(Sat):
日本アーカイブズ学会 2008年度第1回研究集会「デジタル情報技術が拓くアーカイブズの可能性」
(於・東京都/学習院大学
http://www.jsas.info/modules/news/article.php?storyid=21

にコメンテーターとして参加。

  1. 平野宗明、相原佳之、石田徹、蔵原大、黒木信頼、中村元、牧野元紀(国立公文書館アジア歴史資料センター)「アジア歴史資料センターから見たデジタル・アーカイブズの現在と展望」
  2. 後藤真花園大学)「「デジタルアーカイブ」と記録資料−“正倉院文書データベース”と近代史料のデジタル化を通して」

という2つの発表を受けてコメントした。コメントの内容を手元のノートを参考にまとめておこう。

  • まず、そもそも「アーカイブズ」とは何かということを考えたい。言いかえれば、「アーカイブズ」とはどのような働きを持つものなのか。
  • 図書館ではよく「収集・分類・保存・提供」と語られるが、「アーカイブズ」の場合は「保存」だろうか。
  • この「アーカイブズ」にデジタル情報技術が加わることで何が起こるのか。
  • 2つの報告で語られたように、「保存」と「提供」、そして「再構成」(再集合、再生、修復、復元)がある。
  • だが、両報告でも一致していたように、少なくとも現在のデジタル情報技術では、100年単位の「保存」は実現しない。
  • それどころか、両報告で実例が挙げられたように、情報の劣化や減衰すら起きうる。
  • 情報の劣化や情報の減衰は、情報の変容と言いかえられるだろう。
  • デジタル化に伴って起きる情報の変容には、デジタル化に際しての単純なミスもあれば、後世の知見に基づく原典の修正もある。
  • さらにデジタル情報には、可変性が高く変容そのものが知らぬ間に行われかねないという本質的な課題がある。
  • 両報告では「正確性」(平野報告)、「真正性」(後藤報告)と表現されていたが、これは情報技術の世界でいま問題とされている「信頼性」と「信憑性」の問題としてとらえられる。
  • 以上を踏まえつつ、今後の取り組みが期待される課題を挙げる。
  • 1つは、デジタルアーカイブズの目的を整理すること。少なくとも「保存」「提供」「再構成」という3つの機能がありうることは明らかになった。
  • そして「保存」については、必ずしも目的は達せられないことも示唆された。
  • 答えは一つではない。「保存」「提供」「再構成」といった働きが複合的に含まれることになるだろう。
  • その複合的な目的や働きを構成する要素を一覧できる見取り図をとりまとめていく必要がある。
  • 2つ目は、情報の変容の区分を明確にすることであり、同時に明確に区分した情報の変容パターンに対し、どのような態度をとるのか、いわば受容度を決めることだ。
  • 3つ目は、デジタルアーカイブズの大きな目的の一つが利用・活用であるなら、利用・活用を促す仕組みを議論し、一種のスタンダードをつくること。
  • 一つのアイデアとして、デジタルアーカイブズを見るもの/読むものとしてではなく、言及・引用するものへと変えることがある。
  • そのための最低条件として、たとえばパーマリンクがあり、たとえばはてな記法によるブログでの書影表示のような機能があるだろう。
  • これら3点について、議論を重ねて一定の定式をつくっていってほしい。そのための議論を重ねるのが日本アーカイブズ学会の役割だろう。

なお、あくまでノートから起こしたものなので、実際の発言内容とまったく同じではない。

コメントの後、約30分ほどフロアからの質疑を中心とした全体討議。

全体的に非常に濃密な議論が交わされ、心地よい疲労感に包まれた研究集会だった。アーカイブズやアーキビストの世界は、実質的に初体験だったが、非常に楽しいひとときだった。

企画者・参加者のすべてに感謝だが、企画の中心であった松崎裕子さんと古賀崇さんには特に感謝したい。

また、

・Daily Searchivist
http://d.hatena.ne.jp/searchivist/

の主宰者であり、

・「アーカイブの2004年をふりかえる」第203号(2005-01-07)
http://archive.mag2.com/0000005669/20050107004000000.html

を寄稿してくださった坂口貴弘さんにようやくお目にかかれたこともありがたかった。存じ上げてからおよそ4年目。ついに対面できた感動は忘れがたい。