2008-01-19(Sat): 図書館での貸出記録の保存をめぐって−行政は説明責任を果たし、市民は慎重で冷静な議論を(2)

そこそこの反響を呼んだ

・「図書館での貸出記録の保存をめぐって−行政は説明責任を果たし、市民は慎重で冷静な議論を」(編集日誌、2008-01-16)
http://d.hatena.ne.jp/arg/20080117/1200557466

だが、一連のブログ記事をまとめておこう。

朝日新聞の報道があったのが2008年1月11日(朝刊)。残念ながら記事は朝日新聞のサイトでは公開されていない。この記事を受けて、早々に

・「練馬区図書館(図書室その26)」(出会いを大切に!!、2008-01-11)
http://blog.goo.ne.jp/honchijin2006/e/ba988f8e98ead0d58a978c2f1fe76f7e

が書かれている。筆者は図書館員のようだ。趣旨が明確ではないが、「情報は利用者サービスのために利用する」という言葉は印象的。

記事にコメントが掲載されている沢辺均さん(ポット出版/雑誌「ず・ぼん編集委員)が副理事長を務めるNPO法人「げんきな図書館」のサイトでは、沢辺さんのコメント内容を紹介している。

沢辺は「汚損被害の度合いと情報を保存するリスクのバランスの問題」であるとし、「情報公開して利用者らの理解を得てから始めるべきではないか」としています。

・「練馬区立図書館の貸し出し履歴保存についての新聞記事」(げんきな図書館、2008-01-11)
http://www.genkina.or.jp/archives/178

ポット出版
http://www.pot.co.jp/
ず・ぼん
http://www.pot.co.jp/zu-bon/

報道を受けて、東京の図書館をもっとよくする会が

・「「練馬区立図書館貸し出し履歴保存」報道に関して」(東京の図書館をもっとよくする会、2008-01-15)
http://motto-library.cocolog-nifty.com/main/2008/01/post_6dc7.html

を出したわけだが、ほかにも様々な反応が示されている。

まずは今回のシステム導入が練馬区立図書館がいう問題の解決になるのか?という疑問。

履歴を参照できるようにしたところで、ほとんど意味はないだろう。なぜなら、履歴がわかったからといって、破損の証拠とはならないからだ。たとえば、もし本の返却時に破損が判明したとしても、利用者が「借りた時点ですでに破損していた」と主張すれば、結局、トラブルが繰り返されるだけだろう。つまり、このシステムではいつ誰が破損させたかはまったくわからず、事態は今と変わらない。

・「図書館の貸し出し履歴を知ってどうするのか?」(ヨコシマ審議会、2008-01-12)
http://blogs.yahoo.co.jp/yokoshimac/1016387.html

このブログが指摘する通りだろう。本への書き込み抑制と貸出記録の保存は、コストパフォーマンスの問題ですらなく、制度やシステムの設計が根本的に間違っているように思える。

また、既存のシステムでも貸出中は貸出記録が保存されていることを考えれば、リスクは常に存在することを指摘する声もある。

3週間借りっぱなしのあと13週間残る。つまり、最大16週間履歴が残る、と。で、その間に某圧力により貸し出し履歴が…って言い出したら貸し出し中ならしょうがないのか、って話になるでしょ。そうじゃないよね。あらゆるタイミングで、図書館が資料を管理するため以外には使用しない。これが原則であれば、13週間「資料を管理する」目的の為に残っていてもいいでしょう。

・「図書館利用者として思うこと」(novtan別館、2008-01-17
http://d.hatena.ne.jp/NOV1975/20080117/p4

この意見も正論だろう。

さて、リスクを案じるばかりではなく、積極的なメリットを見出そうとする声も少なくない。たとえば、

逆に図書館が貸し出し履歴を活用すれば、アマゾンのようなレコメンデーションサービスを始めることも可能ではないでしょうか。

・「図書館がレコメンデーションする日」(シロクマ日報、2008-01-14)
http://blogs.itmedia.co.jp/akihito/2008/01/post-a62c.html

わたしの窓口応対の経験でも「自分が前に借りた本をもう一度読みたいんだけど、タイトルが思い出せない…」、「貸出記録を印刷して配って欲しい」などとおっしゃる方って、結構いらっしゃいます。「ごめんなさい、図書館はプライバシーを保護する方針ですから」、と言うと、たいがい「不便だね」と返されます。では、もし、仮に個人で、貸出記録を残すか、残さないかを選択できるとしたら、どちらを選ぶ人が多いだろう?

・「貸出記録、残してほしい?ほしくない?」(非正規図書館司書の「βな日記」、2008-01-15)
http://d.hatena.ne.jp/cappuccina/20080115/1200361955

インターネット販売のアマゾンでは、俺の買った本の履歴を管理していて、興味がありそうな新刊が出るとメールがくる。
便利なことがあるね。
もちろん、個人情報管理はしっかりやっているという了解のもとだがね。

・「図書館の貸し出し履歴保存と情報保護」(知的漫遊紀行、2008-01-14)
http://plaza.rakuten.co.jp/ryu32/diary/200801140000

個人的には、特定の個人のレベルまで絞り込んで見ることさえしなければ、こうしたデータはもっと積極的に活用したほうが良いと思うのだが、そこは人が介在して分析する限り、その性として個人の情報に目がいってしまうのは避けられないような気もしている。(Googleやアマゾンというのは、そこに人を介さないようプログラムを使うのだろう。)

・「返却した本をチェックすれば良いのでは?」(ENIGMA VARIATIONS、2008-01-15)
http://projectk.txt-nifty.com/enigma/2008/01/post_05d8.html

本の利用が個々の図書館で完結してしまうような時代はもう終わりだと思います。
ネットワークの時代にふさわしいサービスを提供できるように図書館は変わっていかないといけませんね。

・「貸し出し履歴の有効活用」(諸問題をカンガルー、2008-01-18)
http://d.hatena.ne.jp/sheep_seeker/20080118/1200627415

など。

なお、田辺浩介さん(東京工科大学)は具体的な解決策を示している。

  1. 図書館システムとは別に、「読書管理システム」を作る。運営は図書館以外の組織が行う。書店などの民間企業でもOK。
  2. 利用者は図書館システムに、読書管理システムのIDとパスワードを登録する。もちろん登録は任意。
  3. 利用者が読書管理システムのIDとパスワードを登録してある場合、図書館システムは貸出時に、その利用者の貸出情報を自動的に読書管理システムに送信する。
  4. 資料が図書館に返却されると、図書館システムは貸出情報を消去する。これは今までどおり。
  5. 読書管理システムは送信されてきた貸出情報を蓄積し、利用者に対しておすすめの本を紹介する。同時に、図書館でのその本の所蔵情報を表示する。
  6. 読書管理システムに蓄積された情報は、利用者がいつでも削除できる。

・「貸出履歴」(簡単な日記、2008-01-18)
http://kamata.lib.teu.ac.jp/~tanabe/diary/20080117.html

良案。できる/できないの安易な議論に陥らずに、否定から入らずに、こういう提案が続くとうれしい。

さて、練馬区に関していえば、

・よりよい練馬区の図書館をつくる会
http://betterlib.exblog.jp/
練馬区光が丘図書館利用者の会
http://homepage3.nifty.com/riyosha/

という市民による利用者の会がある。練馬区立図書館の積極的な利用者である両会の方々はどう考えているのだろうか。