2010-02-22(Mon): 柳与志夫著『千代田図書館とは何か−新しい公共空間の形成』(ポット出版、2010年、2310円)

千代田図書館とは何か─新しい公共空間の形成

現在は国立国会図書館に戻っているが、千代田区千代田図書館のリニューアルの立役者である柳与志夫さんの新著『千代田図書館とは何か−新しい公共空間の形成』を頂戴した。

・柳与志夫著『千代田図書館とは何か−新しい公共空間の形成』(ポット出版、2010年、2310円)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4780801427/arg-22/
http://www.pot.co.jp/books/isbn978-4-7808-0142-2.html/

まだ読みだしたばかりだが、類書との大きな違いを感じる点がある。それは成功と失敗の経験と分析に加えて、その2つの体験を踏まえて、現在の千代田図書館に対する要望を遠慮なく述べていることだ。

千代田区立図書館
http://www.library.chiyoda.tokyo.jp/
・ちよぴたブログ
http://chiyoda-dokusho.jp/blog/

ライブラリアンによる体験談風の本は少なくない。しかし、その多くは成功の物語という趣きがある。一部には失敗を正面から論じているものもあるが、成功と失敗というなにか「血と汗と涙」に彩られた努力の物語になってしまっていると思う。ところが、この『千代田図書館とは何か』は、柳さんが去った後の千代田図書館に対して、おそらく図書館関係者であれば、ドキッとするような批判が随所に含まれている。もちろん、批判は極めて建設的なものであり、最初に書いたように要望ともいえるものだ。そして、こういった要望は去った後の千代田図書館にだけでなく、柳さん自身が在職していた頃のエピソードにも向けられている。形としては当時の同僚に対する意見ではあるが、同時に責任者であった自身への厳しい自己批判でもある。なかなかできることではない。

しかし、きっと一部の図書館関係者の間では、古巣に対する柳さんの姿勢を快く思わない向きもあるだろう。だが、よくよく考えてほしい。図書館、少なくとも公共図書館は万人のものである。みんなのものである。図書館で働いていようがいまいが、関係者であろうがあるまいが、誰もが口を出していいのが公共図書館というものだ。むしろ、無償での口出しを得られることは幸せでもあるはずだ。そう思うと、内外を問わず、多様な口出しを歓迎できない限り、その図書館は公共図書館を名乗る資格はないとも言えるだろう。数章を読み進めながら、そんなことを思った。

レビューはいずれ稿をあらためて試みたいが、まずは最初の印象を記してみた。

さて、目次は以下の通り。

なお、柳さんの前著である『知識の経営と図書館』の内容が難しかったという声を図書館業界の関係者から複数回聞いたことがある。それはそれで問題だと思うのだが、それはさておき、前著が難しいと思った方は、まずは今回刊行された『千代田図書館とは何か』を手に取ることを勧めたい。

・柳与志夫著『知識の経営と図書館』(勁草書房、2009年、2520円)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4326098341/arg-22/

2010-02-23(Tue): 「gooラボ ネットの未来プロジェクト」NTT R&Dフォーラム2010ブロガーツアーに参加

昼から東京は武蔵野のNTT武蔵野研究開発センタへ。NTT R&Dフォーラム2010に際して開かれる「gooラボ ネットの未来プロジェクト」NTT R&Dフォーラム2010ブロガーツアーに参加した。

・NTT R&Dフォーラム2010
http://event.ecl.ntt.co.jp/forum2010/info/
・「gooラボ ネットの未来プロジェクト」NTT R&Dフォーラム2010ブロガーツアー
http://agilemedia.jp/goolabmirai/review_82_0.html
・「昨年に続き、「NTT R&Dフォーラム 2010」ブロガーツアーを行います!」(gooラボ スタッフブログ、2010-02-10)
http://blog.goo.ne.jp/labstaff/e/a0f6499113faa781fcd1a5845638120a
・「「gooラボ ネットの未来プロジェクト」 NTT R&Dフォーラムブロガーツアー2010にご参加いただき、ありがとうございました」(AMNイベントレポート、2010-02-25)
http://agilemedia.jp/blog/2010/02/goo_ntt_rd2010.html

冒頭でgooの藤代裕之さんから趣旨をご説明いただき、gooとNTTのR&D部門の関わり等を概説いただいた。次いで、平野徹さん(NTTサイバーコミュニケーション総合研究所)から、つい先日公開されたばかりの

gooラボ - ひとつなぎ
http://hitotsu.labs.goo.ne.jp/
・「「ひとつなぎ」開始」(gooラボ スタッフブログ、2010-02-22)
http://blog.goo.ne.jp/labstaff/e/53887e27b6000b8826a5863e6b8f4ddb

について、上野和風さん(NTT情報流通プラットフォーム研究所)から、

・ドコレキ
https://docoreki.jp/

を題材にパソコンからモバイルへという導線の今後について、それぞれお話いただく。やはり、研究者自身が自らの研究を語るのはいい。研究内容そのものについてしっかりとお話を聞ける上、なぜいまの研究に取り組んでいるのか、しっかりと伝わってくる。自分のような仕事をしている者としては、こういう機会に出会うともっともっと研究と研究者を支援するには、まだ何ができるか、何をすべきか、大いに考えさせられる。

その後は自由行動となり、様々な分野の研究成果を発表しているブースをうかがってまわる。基本的に、ふだんあまりなじみがない研究内容、特にデバイス面を中心に見て回ったのだが、やはりハードウェア、もっと言えば人間の物理的な行動を活用・支援しようとする研究は実に面白い。


そう言えば、図書館システムにおける貸出履歴の活用問題で、とかく情報管理の話が反対論の根拠として使われてしまうが、反証となりうる技術についてお話をうかがうことができたのも収穫だった。

最近、インプットが足りていないと思っていたので、非常に充実したツアーとなった。今後の活動にうまくつなげていかなくては。NTTグループの方々、ツアーをアレンジしてくださったアジャイル・メディア・ネットワークの方々に心から感謝している。

そう言えば、このようなブロガーツアーと同じような取り組みを、公共・大学・専門の図書館・情報機関や国立の研究機関でもできないものだろうか。プレスリリースを乱発するよりはるかに効果もあると思う。ご関心をお持ちの関係者の方々、ぜひご連絡を。

2010-02-24(Wed): 池田謙一編『クチコミとネットワークの社会心理−消費と普及のサービスイノベーション研究』(東京大学出版会、2010年、3360円)

クチコミとネットワークの社会心理―消費と普及のサービスイノベーション研究

これまでも何度かご著書を紹介してきているが、

・「『政治のリアリティと社会心理−平成小泉政治のダイナミックス』」(編集日誌、2007-02-18
http://d.hatena.ne.jp/arg/20070218/1171807928
・「宮田加久子・池田謙一編『ネットが変える消費者行動−クチコミの影響力の実証分析』(NTT出版、2008年、2520円)」(編集日誌、2008-04-14
http://d.hatena.ne.jp/arg/20080417/1208364103

池田謙一さんから新著『クチコミとネットワークの社会心理−消費と普及のサービスイノベーション研究』を頂戴したので、紹介しておきたい。目次は以下の通り。

  • 第I部「ソーシャル・ネットワークと対人コミュニケーション」
    • 第1章「消費行動予測の入り口としての対人コミュニケーション」(池田謙一)
    • 第2章「研究の道具立てと方向性」(池田謙一)
  • 第II部「クチコミを計量する−スノーボール調査と消費者行動のモデル」
    • 第3章「消費者行動とクチコミ」(五藤智久)
    • 第4章「クチコミ行動をモデル化する」(五藤智久)
    • 第5章「スノーボール調査によるクチコミ行動の実証」(富沢伸行・長谷川聖洋)
  • 第III部「消費者行動はネットワークの網の中で生じる」
    • 第6章「ソーシャル・ネットワークをとらえる」(吉田孝志)
    • 第7章「消費者行動を予測する普及シミュレーション」(吉田孝志)
    • 第8章「クチコミとネットワークからサービスイノベーション研究へ」(池田謙一・井口浩人)
  • 付録 スノーボール調査の概要/引用文献/索引

・池田謙一編『クチコミとネットワークの社会心理−消費と普及のサービスイノベーション研究』(東京大学出版会、2010年、3360円)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4130530186/arg-22/
http://www.utp.or.jp/bd/978-4-13-053018-7.html
・池田謙一さん
http://www-socpsy.l.u-tokyo.ac.jp/ikeda/

なお、ご著書等をご恵贈いただける場合は、以下までお送りいただますと幸いです。

  • 〒231-0011 神奈川県横浜市中区太田町2-23
  • 横浜メディア・ビジネスセンター6F-A
  • アカデミック・リソース・ガイド株式会社

2010-02-25(Thu): 松岡資明著『日本の公文書−開かれたアーカイブズが社会システムを支える』(ポット出版、2010年、1890円)

日本の公文書─開かれたアーカイブズが社会システムを支える

公文書管理法(公文書等の管理に関する法律)の施行が1年後の2011年4月に迫ったこの時期。

公文書等の管理に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/announce/H21HO066.html

イムリーに、

・松岡資明著『日本の公文書−開かれたアーカイブズが社会システムを支える』(ポット出版、2010年、1890円)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4780801400/arg-22/
http://www.pot.co.jp/books/isbn978-4-7808-0140-8.html

が刊行された。

この出版を祝う会が有志で企画され、私も末席に加えていただいた。

本書自体へのレビューは別途書くつもりだが、公文書管理法の成立のいわば縁の下の力持ちとして支えた松岡さんならではの労作と思う。すでに読み終えているのだは、現時点での印象を述べれば、まず文章の読みやすさが素晴らしい。決して簡単な話ではない公文書管理の課題を非常に的確にまとめており、私のように公文書管理はかなり門外漢の人間にとってもわかりやすい。今後アーカイブス関係の入門書の定番になっておかしくないだろう。

ちなみに、すでに幾つかのレビューが書かれている。

・「新着文献『日本の公文書 開かれたアーカイブズが社会システムを支える』松岡資明著 ポット出版」(ブログもんじょ箱、2010-01-15)
http://www.tokushu-papertrade.jp/digimon/mon-blog/2010/01/post-72.html
・「松岡資明著『日本の公文書』”謹呈”に感謝、 うれしく拝読」(みんなの広場、2010-01-21)
http://yokonohiroba.jp/?eid=20
・「「公文書」の管理とアーカイブ化が喫緊の課題」(整腸亭日乗、2010-02-13)
http://d.hatena.ne.jp/PreBuddha/20100213

以下が目次となる。

  • はじめに
  • I 公文書管理法はなぜ、必要なのか
    • 公文書管理法は何のための法律か
    • 「公文書」は国民共有の知的資源
    • 情報公開とアーカイブ
    • 日本の現実
    • 杜撰な文書管理は日本の伝統か?
  • II 公文書管理法の成り立ち
    • 公文書管理法成立へ
    • 公文書管理法
    • 公文書管理法の課題
    • III 深くて広いアーカイブズの海
    • 深くて広いアーカイブズの海
    • 知られざる“負の遺産
    • 記録は時代の証人−1 市川房枝
    • 記録は時代の証人−2 満鉄・藤原豊四郎
    • 記録は時代の証人−3 横浜正金銀行資料
    • 記録資料は力
  • IV デジタル化の功罪
    • 研究資源共有化システム
    • SMART-GS
    • デジタル化とMLA連携
    • デジタル・ジレンマ
  • V 記録資料を残す意味
  • VI 記録資料を残すには
  • あとがき
  • 巻末資料 日本の公文書館一覧
  • 巻末資料 参考URL一覧

なお、本書は電子書籍版(.book形式)でも販売されている。

ポット出版 - 【電子書籍版】日本の公文書
http://www.pot.co.jp/books/isbn978-4-7808-5003-1.html
理想書店 - 日本の公文書
http://www.dotbook.jp/risoushoten/items/info/pot0003-rvtcrt

ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)第411号(2010-01-25)に掲載したインタビュー「電子書籍元年!、年頭からポット出版が動いた!−沢辺均さん(ポット出版)に聞く」もお読みいただけると幸い。

・ACADEMIC RESOURCE GUIDE(ARG)第411号(2010-01-25)
http://archive.mag2.com/0000005669/20100125232500000.html

2010-02-27(Sat): 淡路市立図書館東浦図書館を訪れ、情報信憑性検証技術プロジェクトの第4回進捗報告に参加

前日の豪雨はどこへいったのやらと思う快晴の下、浜松を出て一路淡路島へ。基本的な目的は、京都大学情報学研究科の非常勤研究員として参加している

情報通信研究機構 委託研究「電気通信サービスにおける情報信憑性検証技術に関する研究開発」「課題ア Webコンテンツ分析技術」プロジェクト
http://www.dl.kuis.kyoto-u.ac.jp/i-believe/

に出席するため。報告会の開始時間まで少し余裕を持ったスケジュールにし、淡路市立図書館の東浦図書館を見学してみた。

淡路市立図書館
http://www.awajilibrary.jp/

実はここは以前淡路島に来た時に通りがかったものの、時間がなく訪問できなかったのだ。

さて、この図書館はアメリカはミシガン州にあるWest Bloomfield Township Public Library'(西ブルームフィールド公共図書館)と姉妹図書館の協定を結んでいる。

・West Bloomfield Township Public Library
http://www.wblib.org/
・「海越えて心の年賀状 米ミシガンの姉妹図書館から」(神戸新聞2006-01-25
http://www.kobe-np.co.jp/chiiki/aw/00047305aw200701250900.shtml

姉妹都市ではなく、姉妹図書館とは初めて聞いたように思うが、

福井県立図書館と中国・浙江図書館(1998年〜)
http://www.library.pref.fukui.jp/guide/gaiyou.html
・金ケ崎町立図書館とアメリカ・アマーストジョーンズ図書館
http://www.library-kanegasaki.jp/collection.html
函館市図書館とカナダ・ハリファックス図書館(1990年〜)
http://www.lib-hkd.jp/shisetsu/enkaku.html

と幾つか事例があるようだ。また、

・第75回IFLA年次大会 児童・ヤングアダルト図書館分科会(国際子ども図書館 子どもと本の内外情報)
http://www.kodomo.go.jp/resource/child/kg/bnum/2010-kg001.html

によれば、「―言語が同じ二つの国の図書館が交流する」という意味での姉妹図書館というものもあるらしい。

2010-02-26(Fri): 日本製薬情報協議会(PIAJ)東西合同勉強会で講演

早朝に家を出て一路浜松へ。本日は日本製薬情報協議会(PIAJ)東西合同勉強会での講演。

日本製薬情報協議会(PIAJ)
http://piaj.sub.jp/ring/

池田剛透さん(多摩大学メディア&インフォメーション・センター)による「検索サービスの現在・将来と検索技術」、菊池健司さん(日本能率協会総合研究所マーケティング・データ・バンク 情報サービス部)による「ビジネス情報探索トレンド」の次に、「検索を巡る動向、そして検索のこれから」と題して講演させていただいた。

・検索を巡る動向、そして検索のこれから
http://www.slideshare.net/arg_editor/piaj20100226

主に参加者の方向けの連絡だが、上記の資料は実際に用いたものに、残り時間で紹介したサイトの情報を追加している。お役に立てていただければと思う。

[20100228084121j:w100]

今回は事前の打ち合わせ段階から、単なる一方的な講演ではなく、実習を含めることを提案し、受け入れていただいた。すべての参加者がパソコンを持参し、無線LANを使ってインターネットにアクセスした状態で約2時間を演習と発表、講評にあてることができた。やはり、いまの時代の研修会や勉強会は、実際に手を動かすことが必要であり、意義があることをあらためて実感した。勉強会をアレンジしてくださった事務局の方々には心から感謝している。